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第二幕

椿の日常 その19

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『でも、だからって事件を起こしていいわけじゃないじゃん』

安和アンナが、『納得できない』とばかりに不満そうにそう言っても、アオは平然としていた。

『親の言うことには素直に従っとけ!』

とは言わない。子供を、

<自分とは別の人格を有した存在>

として敬うからこそ、その言葉には耳を傾ける。決して蔑ろにはしない。

「そうだね。安和の言うとおりだよ。親に原因があるからって事件を起こしていいわけじゃない。だから、実際の事件でもそういう場合、<情状酌量>には繋がらないんじゃないかな。もしそういう判断が下るとしたら、よっぽどのことがあったんだと思う。それこそ、とんでもない虐待があったとかね。だけどそれくらいのことでもない限り、いや、そんなことがあっても、結局は『やった奴が悪い』で揺らぐことはないよね」

アオの言う通りだ。実際の<事件>が起こった時には、

『やった者が悪い』

が大原則となる。いかに加害者が言い訳を並べようとも、それが通ることは滅多にない。実際にそれが認められるとすれば、それこそ、

<よっぽどの事情>

があった時だけだ。

世間が思っているほど司法は甘くない。ただし、あくまで加害者の行為を客観的に裏付ける<確たる証拠>があってのことなので、それが十分でない場合には、

『被疑者に有利に』

が原則であることも事実。

だから、証拠が不十分だと無罪判決が出ることもある。

けれどその一方で、

『自分がこんな人間に育ったのは、親の所為だ!!』

と司法で主張しても、聞き入れてもらえるのは、それこそアオの言うように苛烈な虐待などがあった場合に限られ、単に、

『自分を人間として敬ってくれなかった』

だの、

『自分の話を聞いてくれなかった』

だのというレベルでは、相手にもしてもらえない。

ゆえに、

『子供が成人していたら親に責任はない』

というのは、いちいち声高に主張しなくても司法の場では当然の話なのだ。

もっとも、法律、特に刑法は、<家庭内の事情>にはそもそも積極的に立ち入らないというスタンスなのでどうしてもこうなるという話でもある。

けれど、だからといって『責任がない』というのは、都合よく解釈しすぎなのだろう。なにしろ民法の場合であれば、たとえ成人している子供のしでかしたことであっても、

『不法行為を止めることができる立場にあった』

と見做されれば、賠償責任を問われることだってあるのだから。

ただ、アオが言っているのは、

『我が子を、自分の欲求や感情のために他人を害するような人間にしないために必要なことは何か?』

という話なので、大前提として『法律論ではない』のだ。

同時に、

『でも、だからって事件を起こしていいわけじゃないじゃん』

安和が口にしたこの言葉も、至極まっとうな意見であり、

『親の言ったことに水を差すようなことを言うな!』的にキレることもないである。

けれど世の中には、子供が真っ当な意見を述べただけでもキレる<普通の親>がいるのも事実なのだ。

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