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第二幕
悠里の日常 その6
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『力を振るっていいのは、生きるためだけ』
ミハエルは悠里に対してそう諭してくれた。
かつて、御厨美千穂を誘拐した者達を制した時も、ゲリラを制した時も、あくまで『理不尽な暴力から命を守るため』だった。しかも、『可能な限り相手の命も奪わないため』に、敢えて圧倒的な力を用いて一瞬で制圧した。
そういうことだ。
あのゲリラ達については、その後、銃殺刑になった者もいるらしいが、その部分はあくまで人間達同士の問題なので、ミハエル達には関与できない。
ゲリラ達が死刑になる可能性があるのは分かっていても、あの時、優先すべきは<仲間>だった。
彼らが『生きるために』戦っているのなら、ミハエル達も『生きるために』『仲間を生かすために』力を振るう。
あれはそういう戦いだった。生きるため。生かすためのそれであって、決して相手を自分の言いなりにするためではない。
自分の力を示して悦に入るためではない。
加えて、ゲリラ達を何人処刑しても、ゲリラ活動に身を投じる者達が出てくる状況を改めなければ無駄だろう。<見せしめ>は通用しないことを為政者達が気付くかどうかは、ミハエル達の責任が及ぶところでもない。
悠里もそれは分かっている。
ただ、こうなると今度は、ネット上で誰かを死ぬまで追い詰めようとしている者達に対して『生かすために』と言って命を奪おうとする者も出てくるかもしれない。
そういう風に自分に都合よく解釈しようとする人間もいるし、悠里自身がそうならないようにミハエルもアオも気を付けている。
あの時、ミハエルとセルゲイがゲリラ達の命を奪わなかった意味を、悠里には知ってもらわなければならない。
それを怠ると、ダンピールである悠里にとって、
<母親を攻撃する者>
は、明確な<敵>となり、命を奪うことすら躊躇がなくなる可能性が高い。
いや、そもそも吸血鬼やダンピールにとって人間は<下等な生き物>でしかないので、人間を駆除することに正当な理由を与えてはいけないのだ。
どれほど吸血鬼やダンピールが人間より『生物として優れて』いても、人間を、
『下等な生き物が!!』
と見下し虐げることは、吸血鬼及びダンピールにとっても人間にとっても不幸しか生まないことは分かっている。
だからこそ、目先の感情論では語れない。
目先の感情論で是非を決めれば、それは必ず自分に返ってくる。
正義を振りかざして他人を踏みにじれば、結局、別の正義によって自分が踏みにじられることになる。
ミハエルもセルゲイも、あの時の自分の行いを<正義>だとは思っていない。
あくまで一時的な<緊急避難措置>でしかないのだ。
ミハエルは悠里に対してそう諭してくれた。
かつて、御厨美千穂を誘拐した者達を制した時も、ゲリラを制した時も、あくまで『理不尽な暴力から命を守るため』だった。しかも、『可能な限り相手の命も奪わないため』に、敢えて圧倒的な力を用いて一瞬で制圧した。
そういうことだ。
あのゲリラ達については、その後、銃殺刑になった者もいるらしいが、その部分はあくまで人間達同士の問題なので、ミハエル達には関与できない。
ゲリラ達が死刑になる可能性があるのは分かっていても、あの時、優先すべきは<仲間>だった。
彼らが『生きるために』戦っているのなら、ミハエル達も『生きるために』『仲間を生かすために』力を振るう。
あれはそういう戦いだった。生きるため。生かすためのそれであって、決して相手を自分の言いなりにするためではない。
自分の力を示して悦に入るためではない。
加えて、ゲリラ達を何人処刑しても、ゲリラ活動に身を投じる者達が出てくる状況を改めなければ無駄だろう。<見せしめ>は通用しないことを為政者達が気付くかどうかは、ミハエル達の責任が及ぶところでもない。
悠里もそれは分かっている。
ただ、こうなると今度は、ネット上で誰かを死ぬまで追い詰めようとしている者達に対して『生かすために』と言って命を奪おうとする者も出てくるかもしれない。
そういう風に自分に都合よく解釈しようとする人間もいるし、悠里自身がそうならないようにミハエルもアオも気を付けている。
あの時、ミハエルとセルゲイがゲリラ達の命を奪わなかった意味を、悠里には知ってもらわなければならない。
それを怠ると、ダンピールである悠里にとって、
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いや、そもそも吸血鬼やダンピールにとって人間は<下等な生き物>でしかないので、人間を駆除することに正当な理由を与えてはいけないのだ。
どれほど吸血鬼やダンピールが人間より『生物として優れて』いても、人間を、
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だからこそ、目先の感情論では語れない。
目先の感情論で是非を決めれば、それは必ず自分に返ってくる。
正義を振りかざして他人を踏みにじれば、結局、別の正義によって自分が踏みにじられることになる。
ミハエルもセルゲイも、あの時の自分の行いを<正義>だとは思っていない。
あくまで一時的な<緊急避難措置>でしかないのだ。
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