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第二幕

我慢ができる人間

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大人はよく、

『子供のうちは我慢を教えるべきだ』

と言う。

『子供のうちに我慢を覚えさせないと、ロクな大人にならない』

と言う。

だが、それは本当だろうか?

<子供の頃に我慢を覚えさせられた大人>

は、本当に、

<我慢ができる人間>

に育っているのだろうか?

ほんの数十秒、信号を守ることさえできないのに?

ほんの数秒、信号が変わるのさえ待てずに、フライングしたりするのに?

ほんの百メートルやそこらの距離を歩くのが嫌で、ほんの僅かな料金を払うのが嫌で、不法駐車や不法駐輪をしたりするのに?

法律で禁止されているのを知りながら、目先の楽しみのために賭け麻雀や賭けゴルフや野球賭博に手を出したりするのに?

自分が楽をしたいがために、すでに安全に自動車を運用できる能力がないにも拘らず他人を命の危険に曝してまでも自動車の運転がやめられなかったりするのに?

店員の些細な振る舞いにキレて難癖を付けたりするのに?

客の些細な振る舞いにキレてSNSに晒しあげたりするのに?

他人を口汚く罵るのは礼節に反すると、道徳的ではないと、様々なところで教わってきているはずにも拘らず他人を罵ることをやめられないのに?

それらの行いのどこが、

<我慢を教わって身に付けた人間>

のすることなのか?

しかもこのように指摘されると、

『正論ばかりじゃやってられない!』

とか、

『その程度のことをごちゃごちゃ言う方がおかしい!!』

とか言って、自省することさえできないのに?

しかも、法律に反するようなことでさえ、他人を命の危険に曝すようなことでさえ、『この程度』と言ってしまうのに?

自分にとって都合の悪いこと、耳の痛いことを言われると、目を背け耳を塞ぐことしかできないのに?

まったく、<我慢>などできてないのではないのか?



などと、こういうことを言っている当人が、

『穏やかな日常を描いていきたいと』

言いながらもその舌の根も乾かぬうちにまた<耳の痛い話>をしている。

つまり、

『<子供のうちに我慢を教えられた効果>など、この程度のものでしかない』

ということだ。

だからミハエルは、

『意図的に<我慢>を教えよう』

とは思わない。

そんなことをしなくても、

<我慢をしなくちゃいけない、我慢をするしかない、という場面>

は、日常的に遭遇する。

『宿題をしなくちゃいけない』

とか、

『あまり顔を合わせたくない相手がいるけど学校には行かなくちゃいけない』

とか、

『雨で鬱陶しいけどやむまで待つしかない』

とか、そういう形で。

それら、<我慢をするしかない場面>において、自身の心持ちをどう保てば無理なく乗り切れるか?

を、ミハエルは子供達に教えていくのだった。

そう。重要なのは<単なる我慢>じゃなくて、

『自分にとって思い通りにならない状況に具体的にどのように対処するか?』

なのである。

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