236 / 571
秋生の日常 その7
しおりを挟む
大人は、すぐ、
『若いうちはどんどん悩めばいい!』
みたいなことを言う。
けれど、悩んでも悩んでも答が見付からないような事態についての対処法は教えてくれない。
そのくせ、どうしていいのか分からずに子供が間違った選択をすればそれは子供の所為にして自分は責任を取ろうとはせず、反対に、子供が立派になればそれは『自分のおかげ』と手柄にしようとする。
美登菜は、そういう<大人の本性>に気付いてしまったのだ。
そして自分の体を金に換えて、あんな両親の下から逃げ出したかった。
なのに、秋生の傍にいると、秋生の顔を見ていると、秋生の声を聞いていると、秋生の放つ空気に触れていると、そんなことはどうでもいいようにも思えてくる。
だから、たぶん、秋生のために自分の体を売るような真似はしないでおこうと思えた。
そんなこんなで、
「あっき~♡ これどこに入れたらいい~?」
いちいち秋生に甘えようとする。
「……」
一方、そんな美登菜の様子を見て、麗美阿は、内心、ざわついたものを感じながらも、今日は本来、
『美登菜が正妻の日』
なので、口出ししないようにしていた。
そしてそんな、麗美阿、美登菜、秋生の姿を見ながら本の整理をしていた美織は、とても嬉しそうだった。
彼女、市川美織も、秋生のことは好きだったものの、その気持ちは、麗美阿や美登菜のそれとは少し違っているかもしれない。
彼女はあくまで、麗美阿や美登菜が楽しそうに幸せそうにしているのを間近で見ているのが好きだったから。
たぶん、本当は秋生のこと以上に、麗美阿や美登菜が好きなのだと思われる。
市川美織は、実を言うと若干の発達障害を持つ少女だった。
もっとも、<発達障害>と言っても、普通に勉強嫌いでほとんどやらないタイプと比べてもそれほど変わらない程度には学力もあって、一見すると分かりにくいタイプだっただろう。
ただ、彼女は、他人の出す指示が曖昧だと何を言ってるのか理解できず、上手く行動に移せないのだ。
たとえば、小学校の頃に、
「教科書の○ページから○ページまでの問題を解いてください」
という宿題を出されても、それがどの教科のものかが理解できず、全教科のそれを解こうとして結局間に合わず、宿題をやってこないことが多かった。
しかし両親は、娘が宿題をやっている姿は見ているので、教師に、
「美織さんがちゃんと宿題をできるように見てあげてもらえますか?」
と言われても、
「いや、家では確かにやってるんですけど……」
と返すしかできなかった。
だが、何度もそういうことがあるので、スクールカウンセラーに相談したところ、
「ひょっとしてお嬢さんには何らかの発達障害があるのでは? 一度、詳しく診断してもらった方がいいかもしれません」
とのアドバイスをもらい受診したことで、軽度の発達障害と診断されたのだった。
『若いうちはどんどん悩めばいい!』
みたいなことを言う。
けれど、悩んでも悩んでも答が見付からないような事態についての対処法は教えてくれない。
そのくせ、どうしていいのか分からずに子供が間違った選択をすればそれは子供の所為にして自分は責任を取ろうとはせず、反対に、子供が立派になればそれは『自分のおかげ』と手柄にしようとする。
美登菜は、そういう<大人の本性>に気付いてしまったのだ。
そして自分の体を金に換えて、あんな両親の下から逃げ出したかった。
なのに、秋生の傍にいると、秋生の顔を見ていると、秋生の声を聞いていると、秋生の放つ空気に触れていると、そんなことはどうでもいいようにも思えてくる。
だから、たぶん、秋生のために自分の体を売るような真似はしないでおこうと思えた。
そんなこんなで、
「あっき~♡ これどこに入れたらいい~?」
いちいち秋生に甘えようとする。
「……」
一方、そんな美登菜の様子を見て、麗美阿は、内心、ざわついたものを感じながらも、今日は本来、
『美登菜が正妻の日』
なので、口出ししないようにしていた。
そしてそんな、麗美阿、美登菜、秋生の姿を見ながら本の整理をしていた美織は、とても嬉しそうだった。
彼女、市川美織も、秋生のことは好きだったものの、その気持ちは、麗美阿や美登菜のそれとは少し違っているかもしれない。
彼女はあくまで、麗美阿や美登菜が楽しそうに幸せそうにしているのを間近で見ているのが好きだったから。
たぶん、本当は秋生のこと以上に、麗美阿や美登菜が好きなのだと思われる。
市川美織は、実を言うと若干の発達障害を持つ少女だった。
もっとも、<発達障害>と言っても、普通に勉強嫌いでほとんどやらないタイプと比べてもそれほど変わらない程度には学力もあって、一見すると分かりにくいタイプだっただろう。
ただ、彼女は、他人の出す指示が曖昧だと何を言ってるのか理解できず、上手く行動に移せないのだ。
たとえば、小学校の頃に、
「教科書の○ページから○ページまでの問題を解いてください」
という宿題を出されても、それがどの教科のものかが理解できず、全教科のそれを解こうとして結局間に合わず、宿題をやってこないことが多かった。
しかし両親は、娘が宿題をやっている姿は見ているので、教師に、
「美織さんがちゃんと宿題をできるように見てあげてもらえますか?」
と言われても、
「いや、家では確かにやってるんですけど……」
と返すしかできなかった。
だが、何度もそういうことがあるので、スクールカウンセラーに相談したところ、
「ひょっとしてお嬢さんには何らかの発達障害があるのでは? 一度、詳しく診断してもらった方がいいかもしれません」
とのアドバイスをもらい受診したことで、軽度の発達障害と診断されたのだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
こずえと梢
気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。
いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。
『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。
ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。
幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。
※レディース・・・女性の暴走族
※この物語はフィクションです。
本日、訳あり軍人の彼と結婚します~ド貧乏な軍人伯爵さまと結婚したら、何故か甘く愛されています~
扇 レンナ
キャラ文芸
政略結婚でド貧乏な伯爵家、桐ケ谷《きりがや》家の当主である律哉《りつや》の元に嫁ぐことになった真白《ましろ》は大きな事業を展開している商家の四女。片方はお金を得るため。もう片方は華族という地位を得るため。ありきたりな政略結婚。だから、真白は律哉の邪魔にならない程度に存在していようと思った。どうせ愛されないのだから――と思っていたのに。どうしてか、律哉が真白を見る目には、徐々に甘さがこもっていく。
(雇う余裕はないので)使用人はゼロ。(時間がないので)邸宅は埃まみれ。
そんな場所で始まる新婚生活。苦労人の伯爵さま(軍人)と不遇な娘の政略結婚から始まるとろける和風ラブ。
▼掲載先→エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
※エブリスタさんにて先行公開しております。ある程度ストックはあります。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる