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椿の日常 その1

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椿は現在、小学五年生である。ミハエル達が海外を転々としている間に進級した。

そして、ミハエル達がいない間、アオの面倒も見てきた。

そう。アオが母親として面倒を見てきたと言うよりは、完全に椿がアオの面倒を見ていたと言った方がいいだろう。

「椿ちゃん、いつもいつもありがとう」

打ち合わせのために家に来ていたさくらにコーヒーを出すのも椿の役目だった。

「いえ、インスタントですから簡単ですし」

椿がそう言って謙遜すると、

「はっはっは! 我が娘は優秀だろう?」

アオがいつもの<作家先生キャラ>で胸を張りながら自慢する。

「はいはい。でも、先生はもうちょっと母親として自覚を持ってくださいね」

さくらが呆れたようにツッコむ

とは言え、それは本気で呆れているわけじゃなかった。そういう<お約束>だった。

さくらも分かっている。アオは十分、母親として子供達と向き合っていることを。

ただ、現実問題としてかなりの部分、椿の利口さに助けられているのも事実。

すでに二年生の頃から椿は家のことをかなりこなせるようになっていた。

だけどそれは、家族で<遊び>として家事をしていたからというのもある。

さくらの家でもそうだったけれど、

『お手伝いをさせる』

のではなくて、

『子供達と一緒に家事で遊ぶ』

という形で家事をこなす。すると子供達も、あくまで<遊び>としてやっているので、嫌がることもない。それどころか、進んでやりたがったりもする。

当然か。子供達にとってはあくまで<遊び>なのだから。

そうすると、自然と、親は自分にはできないことができるということを目の当たりにし、家事ができるようになると同時に親を敬うようにもなる。

遊びの中で。

だからアオもミハエルもさくらも、

『親を敬え』

『大人を敬え』

など口にしたこともない。そんなことを言わなくても子供から見て敬うに値する存在であれば自然と敬ってくれるのだから。むしろそうやって口煩く言わなければ敬ってもらえないというのは、それだけ敬うに値しない存在であるということの証明にさえなるだろう。

実際、蒼井家の子供達も月城つきしろ家の子供達も、友達のように気軽に両親と接していても、ちゃんと親として敬っていた。

こうして椿が、インスタントコーヒーの粉をマグカップに入れて電気ポットのお湯を注ぐだけとはいえコーヒーを用意してくれるのも、結局はアオのことを敬っていて、その母親を支えてくれているさくらのことも敬っているからに他ならない。

などと堅苦しいことを、椿本人はこれっぽっちも考えていないけれど。

ただ、自分のことを愛してくれるアオやさくらのことが好きだから、自分も何かしてあげたいだけなのだった。

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