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必ず助けてあげる……!
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『この臭いは……!』
僅かにのこ美千穂の匂いと共に捉えられた臭いに、セルゲイが厳しい表情になった。すると悠里も察する。
「この臭い、あの時の…?」
「ああ…あの時の自動車の臭いだ……」
セルゲイと悠里の記憶に残る臭い。
昨夜の不審な自動車の臭いだった。それが、美千穂の匂いと重なっている。
「誘拐…?」
「え? 誘拐!?」
ミハエルが呟いた言葉に、安和が訊き返す。その安和の表情が見る見る青ざめていく。
セルゲイに対する彼女の気持ちは承服できなくても、いなくなって欲しいとかどうにかなって欲しいとか、そういう気持ちは安和にはなかった。そういう考え方を、ミハエルもアオもセルゲイも彼女に学ばせてはこなかった。だから無駄に不幸を招くことがない。
しかしそれは、家族以外には及ばないし、もとより行きずりの犯罪までは防げないのも事実。
すると安和が、
「……許せない……!」
青い顔をしながらも強い口調で言った。理不尽に人を攫うようなやり方が許せなかった。
そんな彼女の言葉に、三人は頷く。
「そうだね。こんなことは許せない」
「僕達の友達にこんなの、許すわけにはいかないよ」
「ああ、許してはいけないね」
ミハエルと悠里とセルゲイも言い、四人は顔を合わせて、
「じゃあ、行こう…!」
体に力を漲らせて、臭いが去った方に奔った。
この辺りで走っている自動車とは違う臭い。おそらく粗悪な密造ガソリンか何かを入れているのだろう。それが道路に染み付いている。
だから追跡は容易だった。
「安和、落ち着いて。しっかり気配を消すんだ」
「うん…!」
この四人の中で一番、安和が感情的になっていた。それはたぶん、自分がヤキモチを妬いてしまったことで、美千穂に対して負の感情を僅かといえど向けてしまったことで今回の事態を招いてしまったような気がしたからだろう。自分の所為のような気がしてしまったのだと思われる。
無論、そんなことはないのだけれど。
だけど感情が納得してくれない。自分が許せない。
『必ず助けてあげる……!』
ミシリ、と<牙>を軋ませながら安和は思った。
道路を走る自動車を追い越し、四人は臭いを追って走る。
それは郊外に向けて続いていた。とにかく人気のないところへ向かっているのだろう。
『安和には落ち着くように言ったけど、急がないと…!』
ミハエルは表情には出さずにそう思った。
すると、十分ほど走ったところで、
「いた! あれだ……!」
街を出て少ししたところ、道路を外れた空き地のようになったところにあの自動車が止まっているのが見えた。
しかも、その自動車の中からは、
「う…うぅ……!」
と呻く美千穂の声も届いてきたのだった。
僅かにのこ美千穂の匂いと共に捉えられた臭いに、セルゲイが厳しい表情になった。すると悠里も察する。
「この臭い、あの時の…?」
「ああ…あの時の自動車の臭いだ……」
セルゲイと悠里の記憶に残る臭い。
昨夜の不審な自動車の臭いだった。それが、美千穂の匂いと重なっている。
「誘拐…?」
「え? 誘拐!?」
ミハエルが呟いた言葉に、安和が訊き返す。その安和の表情が見る見る青ざめていく。
セルゲイに対する彼女の気持ちは承服できなくても、いなくなって欲しいとかどうにかなって欲しいとか、そういう気持ちは安和にはなかった。そういう考え方を、ミハエルもアオもセルゲイも彼女に学ばせてはこなかった。だから無駄に不幸を招くことがない。
しかしそれは、家族以外には及ばないし、もとより行きずりの犯罪までは防げないのも事実。
すると安和が、
「……許せない……!」
青い顔をしながらも強い口調で言った。理不尽に人を攫うようなやり方が許せなかった。
そんな彼女の言葉に、三人は頷く。
「そうだね。こんなことは許せない」
「僕達の友達にこんなの、許すわけにはいかないよ」
「ああ、許してはいけないね」
ミハエルと悠里とセルゲイも言い、四人は顔を合わせて、
「じゃあ、行こう…!」
体に力を漲らせて、臭いが去った方に奔った。
この辺りで走っている自動車とは違う臭い。おそらく粗悪な密造ガソリンか何かを入れているのだろう。それが道路に染み付いている。
だから追跡は容易だった。
「安和、落ち着いて。しっかり気配を消すんだ」
「うん…!」
この四人の中で一番、安和が感情的になっていた。それはたぶん、自分がヤキモチを妬いてしまったことで、美千穂に対して負の感情を僅かといえど向けてしまったことで今回の事態を招いてしまったような気がしたからだろう。自分の所為のような気がしてしまったのだと思われる。
無論、そんなことはないのだけれど。
だけど感情が納得してくれない。自分が許せない。
『必ず助けてあげる……!』
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道路を走る自動車を追い越し、四人は臭いを追って走る。
それは郊外に向けて続いていた。とにかく人気のないところへ向かっているのだろう。
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ミハエルは表情には出さずにそう思った。
すると、十分ほど走ったところで、
「いた! あれだ……!」
街を出て少ししたところ、道路を外れた空き地のようになったところにあの自動車が止まっているのが見えた。
しかも、その自動車の中からは、
「う…うぅ……!」
と呻く美千穂の声も届いてきたのだった。
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