上 下
98 / 571

アニメの中の話じゃん!

しおりを挟む
一方その頃、日本では、いつものようにアオとさくらが原稿についての打ち合わせをしていた。

その中で、アオは言う。

「先般、今放送中のアニメの中で、勇気と無謀を履き違えた女性指揮官が無策のまま自軍を戦場に送り込んで大きな損害を受けた挙句、それを非難した主人公に銃に手を掛けたまま詰め寄って張り倒されるというエピソードがあってな。それで何やら主人公のその対処についてあれこれ議論が巻き起こっているそうだ」

アオの原稿の内容には直接関係のない話題だったが、そんな話を振られてもさくらは戸惑うこともなく、

「ああ、何かそんなことになってるらしいですね。ちょうど、担当している先生が執筆中の原稿で似たようなエピソードがあった編集者が、内容を変えた方がいいかどうか、同僚と話し合っていました。その時点では結論が出なかったようですが」

と応じる。

「おお、やはりそういうこともあるのだな。

で、私自身は常々、『自分が負けるはずがない相手を殴って従わせようとするのは卑怯者のすることだ』と子供達に説いていることもあって、その主人公の対処については決して褒められたことではないと本音では思うものの、しかし同時に、まず大前提として、

『アニメの中の話じゃん!』

というのがあるのだ。アニメも含め、フィクションというのは、当然、ただの<作り話>だ。現実じゃない。その作り話の中の登場人物の行いについて本気で腹を立てたりキレるということ自体がナンセンスだと私は思ってる。よく言われる<ヘイト管理>とかいう言葉も私は嫌いだ。

そもそもフィクションの中で登場人物がどれほど非常識に振る舞おうともありえない行いをしようとも、それは現実ではないのだ。現実ではないことを現実に持ち込んでまでキレるというのが私はどうかしていると思う。

私は、子供達に、その辺りの分別はつけるように諭してきてるぞ?

実際、まだ十歳の椿つばきでさえ、アニメの中で悪役がヒドイことをしているのを見て『ヒドイ!』って声を上げたとしても、それが作り話の中だけのことだというのをちゃんと分かってくれている。フィクションは現実じゃないことを分かってくれてるんだ。

フィクションの中のことを現実にまで持ち出してキレ倒す連中は、親にそういう分別を教わってこなかったのか?

私はそれが不思議でならんのだ」

「そうですね。そこについては私も同感です。私も子を持つ親として、フィクションと現実の区別は付けるように子供達に諭してきたつもりでした。

幸い、あきら恵莉花えりか秋生あきおもちゃんと承知してくれています」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熊野古道 神様の幻茶屋~伏拝王子が贈る寄辺桜茶~

ミラ
キャラ文芸
社会人二年目の由真はクレーマーに耐え切れず会社を逃げ出した。 「困った時は熊野へ行け」という姉の導きの元、熊野古道を歩く由真は知らぬ間に「神様茶屋」に招かれていた。 茶屋の主人、伏拝王子は寄る辺ない人間や八百万の神を涙させる特別な茶を淹れるという。 彼が茶を振舞うと、由真に異変が── 優しい神様が集う聖地、熊野の茶物語。

天才たちとお嬢様

釧路太郎
キャラ文芸
綾乃お嬢様には不思議な力があるのです。 なぜだかわかりませんが、綾乃お嬢様のもとには特別な才能を持った天才が集まってしまうのです。 最初は神山邦弘さんの料理の才能惚れ込んだ綾乃お嬢様でしたが、邦宏さんの息子の将浩さんに秘められた才能に気付いてからは邦宏さんよりも将浩さんに注目しているようです。 様々なタイプの天才の中でもとりわけ気づきにくい才能を持っていた将浩さんと綾乃お嬢様の身の回りで起こる楽しくも不思議な現象はゆっくりと二人の気持ちを変化させていくのでした。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」に投稿しております

【完結】会いたいあなたはどこにもいない

野村にれ
恋愛
私の家族は反乱で殺され、私も処刑された。 そして私は家族の罪を暴いた貴族の娘として再び生まれた。 これは足りない罪を償えという意味なのか。 私の会いたいあなたはもうどこにもいないのに。 それでも償いのために生きている。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

後宮にて、あなたを想う

じじ
キャラ文芸
真国の皇后として後宮に迎え入れられた蔡怜。美しく優しげな容姿と穏やかな物言いで、一見人当たりよく見える彼女だが、実は後宮なんて面倒なところに来たくなかった、という邪魔くさがり屋。 家柄のせいでら渋々嫁がざるを得なかった蔡怜が少しでも、自分の生活を穏やかに暮らすため、嫌々ながらも後宮のトラブルを解決します!

【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  
キャラ文芸
疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。

少年、その愛 〜愛する男に斬られるのもまた甘美か?〜

西浦夕緋
キャラ文芸
【和風BL】【累計2万4千PV超】15歳の少年篤弘はある日、夏朗と名乗る17歳の少年と出会う。 彼は篤弘の初恋の少女が入信を望み続けた宗教団体・李凰国(りおうこく)の男だった。 亡くなった少女の想いを受け継ぎ篤弘は李凰国に入信するが、そこは想像を絶する世界である。 罪人の公開処刑、抗争する新興宗教団体に属する少女の殺害、 そして十数年前に親元から拉致され李凰国に迎え入れられた少年少女達の運命。 「愛する男に斬られるのもまた甘美か?」 李凰国に正義は存在しない。それでも彼は李凰国を愛した。 「おまえの愛の中に散りゆくことができるのを嬉しく思う。」 李凰国に生きる少年少女達の魂、信念、孤独、そして愛を描く。

宝石のような時間をどうぞ

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 明るく元気な女子高生の朝陽(あさひ)は、バイト先を探す途中、不思議な喫茶店に辿り着く。  その店は、美形のマスターが営む幻の喫茶店、「カフェ・ド・ビジュー・セレニテ」。 訪れるのは、あやかしや幽霊、一風変わった存在。  風変わりな客が訪れる少し変わった空間で、朝陽は今日も特別な時間を届けます。

処理中です...