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在り方

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互いに相手の背中を流し、そして一緒に湯船に浸かると、さくらは頭をそっと近付けて、エンディミオンの額に自らの額を触れさせた。

エンディミオンも拒むことなくそれを受け入れる。

そんな彼に、さくらは穏やかに語り掛けた。

「こんな私と一緒にいてくれてありがとう……

あなたはいつだって私を拒むことができるのに、そうしなかった……

それだけで十分だと思ってる。

だけど、人間ってホントに欲深いよね。あなたがこうして私の傍にいてくれるのが当たり前になってしまうと、もっと、もっと、と思ってしまう……

ごめんなさい……」

それは、さくらの正直な気持ちだった。苛烈な過去を持つ彼はダンピールであり、本来ならただの人間であるさくらを受け入れる必要などまるでない。彼にはその義務はまったくなかった。

なにしろ人間の法律は彼を守ってはくれないのだから。

なのに彼は、こうしてさくらを受け止めてくれている。それだけでもすごいことのはずだった。義務とか何とかをはるかに超えた途方もない大きな器のはずだった。

だからさくらは彼に対して大きな<恩>があった。たぶん、自身の生涯を費やしても返しきれないほどの恩が。

けれど……

「…お前が謝る理由はない……」

額をつけたまま目を伏せて語る彼女に、エンディミオンも静かに返す。

それだけを口にした。他には何もしなかった。気の利いた言葉を掛けてくれるわけでも、キスをしてくれるわけでも、抱き締めてくれるわけでもなかった。

そういうのは彼に求めるだけ無駄だった。何しろ彼はそういう<心の機微>といったものとは無縁の、殺伐とした世界に生きてきたのだから。

こうやってさくらを受け止めてくれてるだけでもとんでもないことなのだから。

「……ありがとう……」

それを実感できてホッとして、さくらは微笑んだ。微笑みながら、彼の艶やかな唇に自身のそれをそっと重ねた。彼からはしてくれないから、自分からそうした。

これについていろいろ言う人間もいるかも知れない。しかしそもそも人間とダンピールという二人の間に人間の理屈は成立しない。二人には二人だけの形があって、これがさくらとエンディミオンの在り方だった。

改めてそれを思い出させてもらえて、さくらも満足していた。彼の言葉が足りないことについては、もう気にならない。

またしばらくすると不満も溜まってきてしまうかもしれないものの、その時にはやっぱりまたこうやって再確認すればいい。

もし、彼がこうして受け止めてくれなくなった時には、それはもうこの関係が終わるのだろう。

さくらにはその覚悟もあったのだった。

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