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日常編
ヒロキ・ヤマヒト。男。地球人
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そのヒロキと名乗った青年は、ユウカがここに来てから十年ほど後に、命を落として転送されてきた地球人だった。
「僕は、地球の紛争地帯で活動する医療ボランティアのサポートスタッフとして働いてたんだ。でも、僕がいた病院が、ミサイルの誤爆を受けてさ。
さすがに一瞬のことだったから僕自身はその時のことは覚えてない。何かすごい衝撃があったと思ったら意識が途切れたし、痛いとも苦しいとも思う暇がなかった。なにしろ、遺体さえ回収できない状態だったそうだし。
でも、こっちに来てから地球のネットのニュースでそれを知ってね……
自分が死んだこと、自分が死ぬことになった経緯を知った時は、さすがに落ち込んだよ。数年間は自分でも何をしてたのかよく覚えてないくらいだった。
だけど、地球に残った僕の家族が頑張ってるのを知ってね。僕もいつまでも落ち込んではいられないって思ったんだ」
それは、籍は入れていなかったが彼とある種の交際関係にあった女性が、彼の死をきっかけに世界的な活動を始めたというネットのニュースだった。その女性は彼の遺志を継いで活動を続け、ついには紛争が絶えなかった小国の社会体制そのものを変革させて紛争を終了させたのだと言う。
「すごいだろ? 僕は彼女に負けないようにする為にと思ってボランティアの活動を始めたんだけど、それでも彼女には敵わないっていうのを思い知らされたよ」
そう言いながらも、彼はとても嬉しそうだった。まるで恋人の自慢でもするかのように、その女性のことを語った。
「彼女は昔からすごくて、その頃はまだ僕も子供だったんだけど、つい、子供っぽい思い付きで、彼女に『世界を救うところを見てみたい!』って言ってしまったんだ。そしたら彼女はその為に会社まで作ってしまった。
だけど、そういうのってやっぱりいろんなところから反発を受けたりもするんだ。『綺麗事だ』とか『お花畑だ』とかさ。だから彼女だけにそういうのを背負わせたくなくて、彼女に『世界を救うところを見てみたい!』って言ってしまった自分もその責任を負いたくて、頑張ったつもりだったんだけどさ……
ちょっと、追い越しちゃったのかな……」
照れくさそうに頭を掻きながら、しかしどこか寂しそうな笑顔を浮かべるヒロキのことを、ユウカは思わず見詰めてしまっていた。
『ヒロキさん……』
こんなことは初めてだった。ここに来てからは随分とマシになったとはいえ、元々は人見知りでコミュニケーション能力に乏しいユウカは、初対面の人間の顔を真っ直ぐに見るということができなかった。それなのに、ヒロキに対してだけはそれができてしまったのだった。
「僕は、地球の紛争地帯で活動する医療ボランティアのサポートスタッフとして働いてたんだ。でも、僕がいた病院が、ミサイルの誤爆を受けてさ。
さすがに一瞬のことだったから僕自身はその時のことは覚えてない。何かすごい衝撃があったと思ったら意識が途切れたし、痛いとも苦しいとも思う暇がなかった。なにしろ、遺体さえ回収できない状態だったそうだし。
でも、こっちに来てから地球のネットのニュースでそれを知ってね……
自分が死んだこと、自分が死ぬことになった経緯を知った時は、さすがに落ち込んだよ。数年間は自分でも何をしてたのかよく覚えてないくらいだった。
だけど、地球に残った僕の家族が頑張ってるのを知ってね。僕もいつまでも落ち込んではいられないって思ったんだ」
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「すごいだろ? 僕は彼女に負けないようにする為にと思ってボランティアの活動を始めたんだけど、それでも彼女には敵わないっていうのを思い知らされたよ」
そう言いながらも、彼はとても嬉しそうだった。まるで恋人の自慢でもするかのように、その女性のことを語った。
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だけど、そういうのってやっぱりいろんなところから反発を受けたりもするんだ。『綺麗事だ』とか『お花畑だ』とかさ。だから彼女だけにそういうのを背負わせたくなくて、彼女に『世界を救うところを見てみたい!』って言ってしまった自分もその責任を負いたくて、頑張ったつもりだったんだけどさ……
ちょっと、追い越しちゃったのかな……」
照れくさそうに頭を掻きながら、しかしどこか寂しそうな笑顔を浮かべるヒロキのことを、ユウカは思わず見詰めてしまっていた。
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こんなことは初めてだった。ここに来てからは随分とマシになったとはいえ、元々は人見知りでコミュニケーション能力に乏しいユウカは、初対面の人間の顔を真っ直ぐに見るということができなかった。それなのに、ヒロキに対してだけはそれができてしまったのだった。
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