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日常編

私はアニメと結婚したんです

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「そっか……お父さんもお母さんも亡くなったんだ…」

地球にいるオリジナルの石脇佑香についての記事を読んでいた時、両親はすでに亡くなっていることをユウカは知った。

『無理もないか。地球の時間でならもう孫がいても何もおかしくない年齢だもんね……

だけど不思議……両親が亡くなってもなんとも思わない……

ああでも、それも当然と言えば当然なのかな……』

などと考えてしまうくらい、ショックではなかった。

それは、昔に比べれば恨みも薄れたかもしれないが、やはり心から許せてはいないからだと実感した。

当然だろう。幼いユウカにとって両親の仕打ちは無意識の奥底にまで刻み込まれるほどの苦しみだったのだ。自分が生まれてきたことそのものを否定され、自分の存在そのものの価値を否定されてきたのだから。

『そんな親でも、<親>っていうだけで許されて認められて敬われるなんて、おかしいよ……』

なんてことも考えてしまう。

『育ててもらった恩を感じろ』など、『犯罪者を無条件に許せ』と言われているのと同じだとユウカは感じていた。完全に加害者側の理屈だと感じていた。だから彼女にはそんなことは無理だった。

『でも、ここに来て、たくさんの人に触れて、たくさんの人生に触れて、たくさんの価値観に触れて、何百年何千年経っても恨みや憎しみを完全には忘れられない人が普通にいるっていうのが分かったからね。

だけどそんな人達も、そういう恨みや憎しみそのものを自分の一部として受け入れて、その上で楽しく生きてるんだ……』

わだかまりは決して消えない。けれど、それだけに囚われることもなくなっていたのだった。



ちなみにオリジナルの石脇佑香は未婚だそうである。本人曰く、

『私はアニメと結婚したんです』

とのことだが、ユウカはそれを見て何とも言えないむず痒い気分になっていた。

『自分がこれを言ったんだと思うと……』

どうにも居心地が悪い。

とは言え、もう既に別の人生を送って数十年。元は同一人物でもこれだけ違う経験を積んでくればそれはもはや<同一>とは言えないだろう。同じ遺伝子を持った一卵性双生児のようなものとも言えるかもしれない。しかも遠く離れてまったく別々の人生を歩んできた。

そんな石脇佑香のことも、気恥ずかしくはあるが受け止められるようになっていた。

『この人が結婚しないのも、あの人達を見てたからだろうなあ……』

石脇佑香が結婚していないのも、両親を見てきた結果だろうと推測できた。あの両親を見ていては、結婚になど夢や希望を抱けない実感しかない。

『今は<書庫ここ>で生きている自分がそういうのに踏み切れないのも、結局はそれが影響しているのかもしれないな……』

けれど、ここではそれを責められることもない。とやかく言う人間がいても、スルーすればいいのだから。

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