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日常編

人に懐かない厄介なペット

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風の属性を嫌悪しているということはビヤーキーにとってもレルゼーは敵だったが、力の差は圧倒的だった。そんなレルゼーに逆らうなど、ハエが人間を持ち上げて飛ぼうとするよりも無謀なことだった。

それに元より、ここではいくら神話生物といえども人間を害することはできない。怪我をさせる程度のことはできても、命を奪うことは叶わない。だから人に懐かない厄介なペット程度の存在でしかなかった。

翌朝、そんなビヤーキーを引き連れて、レルゼーはユウカの部屋を訪れていた。

「わあ、思ってたよりもおっきいんだね…!」

ユウカは笑顔を浮かべながらも実際に目にするビヤーキーに驚きを隠せなかった。同時にすごく興奮もしていた。無理もない。ある意味では憧れ続けたものが今の目の前にあるのだから。

「触っても大丈夫かな?」

そう尋ねるのと同時に触りたくてうずうずしてしまってつい手を差し出してしまうユウカに、レルゼーは冷静に忠告する。

「触るのは構わない……でも、怪我をする覚悟は必要…」

本来なら怪我などでは済まない筈だが、その辺りはここが<書庫>だということで逆に怪我で済んでしまうということも表していた。とは言え、ユウカの方も思わず手を引っ込めて、

「あ、そ、そうか。そうだよね」

と残念そうに笑った。それでも、念願の神話生物の実物を前に、

「可愛い…」

などと呟いてしまうのは彼女ならではか。

そんなユウカとは対照的に、ガゼは少し引き気味だった。

無理もない。昆虫のような獣のような奇怪でグロテスクな<神話生物>はただの空想の産物ではなく、実際に存在する危険だという認識があったからである。それを前にしてさえ嬉しそうにしげしげと眺めるユウカのことは、

『こういうところは理解できないな~…』

口には出さなかったがついそんなことを考えてしまったりもする。

いくら好きな相手でも、やはり自分にとっては相容れない部分というものはあるということだろう。

人間関係とは、そういう部分といかに折り合うかということなのかもしれない。自分の都合や感性ばかりを優先し相手がそれを理解してくれることだけを願っていては、結局は誰からも受け入れてもらえない。表面上は合わせてもらえていてもその裏では、ということもよくある話ではないだろうか。

もっとも、たとえお互いに相手のすべてを受け入れていたとしても、時間の経過と共に続けられなくなるということも往々にしてある話だと思われる。そしてそれが修復できないようであれば、敢えて無理はせず距離を置くことも必要なのだろう。

『でも、私はユウカが好き……!』

ガゼの場合はそれがいつになるかは分からないが、少なくとも今は理解できないながらも受け入れたいとは思っていたのだった。

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