上 下
155 / 205
日常編

何だろう、楽しい!

しおりを挟む
「気持ちいいね」

ユウカは、川縁にしゃがみこんで手を水に浸してみた。

『そう言えば小学校の遠足の時は、他の子が遊んでてもそれを横目に溜息を吐きながら時間が過ぎるのを待ってただけだったな……』

そんなことを思い出す彼女だったが、今は素直に水で戯れることができた。

手で水をすくって、前へと飛ばしてみる。まったく意味の無いその行為が何故か楽しく感じられて、何度も繰り返す。

『何だろう…? 楽しい……!』

小学校の時には全く理解できなかったそれが今、不思議と楽しい。

それはメジェレナも同じだった。ユウカの真似をして意味もなく水で遊んでみる。何故か楽しい。そこにガゼも一緒になって、水を飛ばして遊ぶ。ガゼの渾身の一投は、たっぷり十メートル以上ある川を越えて向こう岸まで届いた。

「ガゼちゃんすごい! 私もできるかな!」

声を上げたユウカが、力一杯水をすくって飛ばしてみた。が、それは向こう岸にまでは全く届かなかった。

「えー? どうして!?」

その結果に納得できずに今度は足を前後に広げて構えて渾身の一投を放った。

が、やっぱり届かない。それを見ていたメジェレナが、

「よ~し、じゃあ私が!」

とユウカと同じように構えて放った。しかしそれも向こう岸には届かなかった。

「体のバネの使い方が悪いんだよ」

ガゼが笑顔で体を縮めて水をすくい、弾けるように伸びあがって水を放つ。すると楽々と向こう岸にまで届いた。その時のガゼの姿は、彼女の言葉通り、足の裏から指先までが一つのバネを思わせた。体術の達人で体の使い方を熟知しているからこその技だったのだろう。

「すごいなあ、ガゼちゃん…!」

実に無意味な取るに足らない児戯にしか過ぎないそれだったが、ユウカにとっては単純に感心させられた。これもまた、遠足の時に同級生達が同じことをしていても感じないことだった。あの頃には、そういうのに感心するだけの心の余裕がなかったのだろう。圧し潰されそうな閉塞感、無力感の中で自分のことしか考えられなくなっていたのかもしれない。

それが今、こんな他愛ないことでも感心できるほどに視界が開け、心が軽いのだ。だから楽しい。

何を楽しむにしても心に余裕がなければ楽しめない。ユウカはそれを実感していた。

「楽しい! 楽しいね、ガゼちゃん、メジェレナさん…!」

そう言いながら何度も水を放つユウカに負けじと、メジェレナも水を放った。とても屈託のない笑顔だった。

「ホントだね、なんでか分からないけど楽しいよ!」

そうしていつしかそれは、三人での水の掛け合いになっていたのであった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

人と豚のハルマゲドン

みらいつりびと
ファンタジー
人と豚とキャベツの世界で人と豚の最終戦争が勃発する。遠未来思索実験小説。 遥かなる過去に神が創造した生き物たちは次々と絶滅への道を歩んだ。そしてついに、地上に残された生き物はヒト、ブタ、キャベツの三種のみ、という時代が到来した……。 旅人ロンドンとわがままかわいいキャベツ姫は大発生した野豚の大群に立ち向かう。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。 ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。 冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。 のんびり書いていきたいと思います。 よければ感想等お願いします。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...