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日常編
ラリーとヘラリネネティク。ペテルセニア夫妻
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「久しぶりだね、ガゼ」
リーノ書房での仕事中、不意にそう声を掛けられて振り向いたガゼは、何とも言えない複雑な表情で固まってしまっていた。
「ラリー…ヘラ……」
辛うじてそれだけを言葉にした口元は何とか笑みを形作ろうとするものの、それは功を奏さずやはり強張った状態以上にはならなかった。
そんなガゼの前に現れたのは、地味ではあるが優しそうな青年という印象のラリー・ぺテルセニアと、ふんわりとした柔らかい感じの明るいブラウンの髪がややあどけなさの残る顔立ちと相まって少女漫画のキャラクターのようにも見える妻のヘラリネネティク・ペテルセニアだった。
かつてガゼが二股を掛けようとしてそれがきっかけになって二人が結ばれ、結果として両方からフラれてしまった相手である。
「実は今、長期の休暇をもらって家族で旅行中なんだ。それで近くまで来たから懐かしくなって寄ってみたんだよ。元気そうだね」
「私達の出会いのきっかけになったガゼにも改めて挨拶したかったしね」
そう言って二人は屈託なく笑う。しかしガゼはそれどころではなかった。
『どうして今更……』
口には出さなかったがそんなことを思ってしまっていたのだ。
二人は、自分達がガゼに二股を掛けられていることを知っていた。知っていて出会い、そして互いに一目惚れ同然で恋に落ちた。それは決して、二股をかけていたガゼに対するあてつけとかではなかった。本当に惹かれあってしまっただけだった。
しかも、ラリーの方は元々自分からガゼに告白して交際していたので少なからずガゼに対して当時は負い目もあった。ただ、ガゼの方も、早々にラリーよりはヘラに惹かれていたのに、まるでキープのようにラリーとも付き合っていたという後ろめたさもあったので、その辺りはお互い様と思っていたりもした。
だが、そういう諸々を含めた上で二股をかけただけでなく、二人の気持ちが自分よりもお互いに向いてることに気付いて、二人の間にまるで娘のようなポジションで収まろうと画策したのに結局それも失敗したことが今でも気まずいというのがあったのだった。
それなのに、二人はそんな過去などなかったかのようににこやかなのだ。そのことがまた、
『うう…気まずい……』
と、思わせてしまう程度には、ガゼに不可解なプレッシャーをかけていたとも言えるだろう。
『……あ…』
更に、ガゼは気付いてしまった。そんな二人の後ろに、それぞれの特徴を色濃く受け継いだ、一目で二人と血縁関係があると分かる、十代半ばくらいの少女が立っていたことに。
呆気にとられたかのようなガゼの視線に気付いた二人は、声を揃えて言った。
「この子は娘のサラネスティだよ」
リーノ書房での仕事中、不意にそう声を掛けられて振り向いたガゼは、何とも言えない複雑な表情で固まってしまっていた。
「ラリー…ヘラ……」
辛うじてそれだけを言葉にした口元は何とか笑みを形作ろうとするものの、それは功を奏さずやはり強張った状態以上にはならなかった。
そんなガゼの前に現れたのは、地味ではあるが優しそうな青年という印象のラリー・ぺテルセニアと、ふんわりとした柔らかい感じの明るいブラウンの髪がややあどけなさの残る顔立ちと相まって少女漫画のキャラクターのようにも見える妻のヘラリネネティク・ペテルセニアだった。
かつてガゼが二股を掛けようとしてそれがきっかけになって二人が結ばれ、結果として両方からフラれてしまった相手である。
「実は今、長期の休暇をもらって家族で旅行中なんだ。それで近くまで来たから懐かしくなって寄ってみたんだよ。元気そうだね」
「私達の出会いのきっかけになったガゼにも改めて挨拶したかったしね」
そう言って二人は屈託なく笑う。しかしガゼはそれどころではなかった。
『どうして今更……』
口には出さなかったがそんなことを思ってしまっていたのだ。
二人は、自分達がガゼに二股を掛けられていることを知っていた。知っていて出会い、そして互いに一目惚れ同然で恋に落ちた。それは決して、二股をかけていたガゼに対するあてつけとかではなかった。本当に惹かれあってしまっただけだった。
しかも、ラリーの方は元々自分からガゼに告白して交際していたので少なからずガゼに対して当時は負い目もあった。ただ、ガゼの方も、早々にラリーよりはヘラに惹かれていたのに、まるでキープのようにラリーとも付き合っていたという後ろめたさもあったので、その辺りはお互い様と思っていたりもした。
だが、そういう諸々を含めた上で二股をかけただけでなく、二人の気持ちが自分よりもお互いに向いてることに気付いて、二人の間にまるで娘のようなポジションで収まろうと画策したのに結局それも失敗したことが今でも気まずいというのがあったのだった。
それなのに、二人はそんな過去などなかったかのようににこやかなのだ。そのことがまた、
『うう…気まずい……』
と、思わせてしまう程度には、ガゼに不可解なプレッシャーをかけていたとも言えるだろう。
『……あ…』
更に、ガゼは気付いてしまった。そんな二人の後ろに、それぞれの特徴を色濃く受け継いだ、一目で二人と血縁関係があると分かる、十代半ばくらいの少女が立っていたことに。
呆気にとられたかのようなガゼの視線に気付いた二人は、声を揃えて言った。
「この子は娘のサラネスティだよ」
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