上 下
128 / 205
日常編

ドラゴン・バイト

しおりを挟む
「大まかな概要以外はほぼ創作ですが、面白く描かれていたと思いましたよ」

<宇宙海賊ヴァイパー>について、シェルミはそう評した。細かい表情が分かりにくいものの、何故かちょっと照れてるように見えたのは、眼の光が若干いつも以上に明るくなってたからだろうか。

シェルミがそんな感じで明るく振る舞ってくれたことで、ユウカとガゼも少し落ち着いた。パートナーを庇って命を落とすというという最後は、やはり悲しかったからだ。命を落としたこともそうだが、そうまでして守ったパートナーともう会えないということに、胸が締め付けられた。

「シェルミさん、辛いですか…?」

ユウカが敢えて問う。それに対し、シェルミが静かに答えた。

「そうですね。でももう大丈夫です」

ここでは、辛い過去を持っていない人間はいないため、過去を問うことは失礼には当たらない。その代わり、自分の過去も明かすのが礼儀という慣習がある。ユウカの過去についてはこれまでにもことあるごとに触れてきていたので、シェルミの過去を問うても何も問題がなかった。

逆に、シェルミの過去に触れてこなかったことの方が珍しいとも言える、ただ、何となく聞きそびれてきていたのだ。その辺りは、シェルミが機械生命体であることで、無意識にどこか壁を作ってしまっていたのかもしれない。ようやくそれが溶けてきたのだろう。

シェルミは優しくて丁寧なのですごく頼りにはしてきたのだが、それがかえって遠慮になっていた可能性もある。

それにしても、

『まさか宇宙海賊だったなんて……』

シェルミの思わぬ過去に言葉を失ったユウカとは対照的に、気を取り直したガゼは興味津々な様子だった。

「ねえねえ、ヴァイパーの宇宙船って、アニメのドラグーン号と同じだったの?」

身を乗り出してそう尋ねる。

<ドラグーン号>とは、<宇宙海賊ヴァイパー>内でヴァイパーとレディ・シェリーが乗っていた龍型の宇宙船のことである。その必殺技と言うか最強武器が<ドラゴン・バイト>と呼ばれる、ドラグーン号そのものが龍の口に変形して相手を噛み砕くというあまりに豪快かつ荒唐無稽な攻撃方法だった。しかし。

「名前は同じドラグーン号でしたが、さすがにアニメの方は絵的な面白さや迫力を加える為に、デザインも武装も大幅に脚色されています。当時の最高技術でチューンナップはされていたものの、見た目には一般的な宇宙船とそれほど変わりませんでしたね」

「え~? じゃあ、ドラゴン・バイトは装備されてなかったってこと?」

「はい。残念ながら」

「ガ~ン! ショック! ドラゴン・バイトでボスの宇宙船を真っ二つに噛み砕くところとかスゲー燃えたのに~!」

クライマックスシーンが脚色だと知ったガゼの落ち込み様に、シェルミは、

「うふふ、ごめんなさい」

と柔らかく応えた。

それは、ユウカもガゼも初めて見るシェルミの姿だった。

しおりを挟む

処理中です...