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転生編

気持ちが通じていれば

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いかにもな<閑静な住宅街>の一角に、アーシェスの自宅があった。決して小さくはないが、かと言って<邸宅>と呼べるほど立派でもない。

『なんだか、アーシェスさんらしい家だな』

一目見てユウカがそう思ったように、質素で堅実な彼女らしい家だった。

と言っても、いわゆる<個人の資産>としての住宅ではない。<書庫>には、完全な個人所有の資産としての物件は存在しない。一応、金銭で取引される場合もあるものの、それはあくまで<その住宅に住む権利>をやり取りしているだけなのだ。

これは、書庫側が住宅としてのリソースを提供しているからである。仕組み上、どうしてもそうなるのだが、かと言って本人が住みたいと言えばいつまででも住み続けることができるので、実質的には個人所有の不動産と大きく差はないのでこれといった不満も出なかった。

もっとも、不満を言っても、書庫に住む以上は従うしかないのだが。

まあそれはさておき、

「ようこそ。いらっしゃいませ。僕がアーシェスの夫のトゥルカーネスです」

そう言って玄関で出迎えてくれたのは、眼鏡をかけた、痩躯の、とても穏やかで優しそうというありきたりな表現しか出てこない、<人畜無害>を絵に描いたかのような柔和な印象の青年だった。

リーノ書房の店長、ハルマにも似た雰囲気だが、ハルマよりももっと落ち着きがあるようにも思えた。

当然か。ハルマはまだたったの数百歳。それに対してトゥルカーネスは、アーシェスと百万年以上添い遂げてきた人物なのだから。

「あなたがユウカさんですね。そして君がガゼちゃんか。いつもアーシェスから話は聞いてるよ」

そう言った彼に、ガゼは、困ったように笑いながら、

「どうせ、ロクでもない話でしょうけどね」

と応じた。けれど、そんな彼女にも彼は優しく、穏やかだった。

「元気なのはいいことだよ」

と、ふわりと微笑う。

そんな彼を見て。

『ああ…、アーシェスさんの旦那さんなんだなあ……』

しみじみユウカは納得した。

「どうぞ。上がってください」

招き入れられた部屋はとてもきれいに整理整頓されていて、清潔なリビングだった。

だけど……

『シンプル過ぎて、生活感がない気もする』

なんて感想を抱いてしまった。

けれど、アーシェスとトゥルカーネスにとってはそれで十分なのだった。

無理のない、自分達にとって平穏な暮らしを追求した結果、この結論に至ったからである。

二人は、ただお互いが傍にいれくれればそれで十分と考えていた。それ以外のものは全て<おまけ>に過ぎない。

お互いの気持ちが通じていれば、他には何も必要なかったのだった。

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