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転生編

タミネルとリル

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『私も人付き合いが苦手なので』

普段のタミネルならそんなことはまず口にしないだろう。

実際、これまでユウカはそんな姿を見たことがなかった。だが、<発情期>のために感情が昂っている状態だったことでつい口走ってしまったということだ。

『タミネルさん…』

その一方で、そんなタミネルを見て、ユウカもハッとなっていた。普段はすごくしっかりした感じに思えたタミネルも自分と同じだったことに、安心感と言っては語弊があるかもしれないが、すごく距離が縮まるのを感じたのだった。

『タミネルさんの体調が悪いんなら、負担を掛けないようにしなくちゃ…!』

だからユウカは、自分が仕事を頑張らないといけないと思った。大変そうなタミネルの分も自分が頑張りたいと素直に思った。

「分かりました」

ふわりと柔らかく笑顔を浮かべて頷いて、それからは黙々と仕事をこなす。

『ああ…本当にごめんなさい』

自分を気遣ってくれるユウカを見て、タミネルは内心では心から感謝していたのだった。



しかしタミネルのそれは十五日ほど続くものだったので、リルがバカンスから帰ってきて仕事に復帰すると、

「お、タミネル。アレか。大変だね」

と顔を見るなりそう軽口を叩いた。

「……」

タミネルはそれに対して少し困ったような顔を見せたが、リルが決してからかっているのではないことは分かっていたから特に何も言わなかった。

『リルさん、さすがにそれは……』

そのやり取りに少し居心地の悪さを感じて戸惑っていたユウカに対してリルは、

「ユウカもあるんだろ? アレ。それと同じだよ。私らのよりちょっと見た目にも現れるだけ。心配要らないよ」

と当たり前のことを教えるように自然な感じで語った。

それでユウカにも、

『そういうことか…!』

とようやくピンと来て、少し顔を赤くして俯いてしまう。だがそのおかげで、それ以降は必要以上に意識せずにいられるようになった。

『私も変に気遣われるよりそっとしておいてもらえる方がありがたいもんね』

と思い、そうしようと思ったのだ。

生真面目で責任感が強く頭は良いが決して要領が良いとは言えないタミネルと、陽気で軽薄で口が軽そうに見えるが実は気遣いも出来るリルの組み合わせは、ここの仕事の確実さと人間関係の良好さを保つためには必要なものだというのが感じられた。

それに加えて、

『種族が違うってことは、生理現象とかも違ってたりするんだな…』

ということを改めて実感させられた。

『そういうのも違いをちゃんと理解して受け止めていかないと……』

とも思えた。

そう思えるユウカは、確かに成長していた。怯えておたおたするばかりだった彼女の姿は鳴りを潜め、他人を気遣えるだけの器を持ち始めていたのだ。

だから最近、アーシェスもそう頻繁には顔を出さなくなっていた。ユウカのフォローもまだもちろん必要だが、次のエルダーへの引き継ぎも大事な仕事である。そして何より、ヘルミのフォローに忙しかったのだった。

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