上 下
36 / 205
転生編

アイアンブルーム亭一番人気、怒涛の回鍋肉

しおりを挟む
「あいよ、これがうち、アイアンブルーム亭の一番人気、回鍋肉だ!」

そう言ってニレアラフタスがユウカたちのテーブルに置いたのは、大皿に山と積まれた回鍋肉だった。

『え…!? マジ……!?』

見た瞬間、ユウカはあんぐりと口を開けてしまった。

多い。多すぎる…! 少女二人と女性一人で食べるには明らかに多すぎという量だ。マニ辺りなら食べ切りそうかなとも思えなくもないが。

「食べ切れなかったらお持ち帰りもOKだよ。タッパーは別料金だけどね」

『あ…なるほど。それはそうだよね…』

それならまあ合理的ではあると言えるだろうか。

「い、いただきます」

先に「いただきます」と食べ始めたアーシェスとメジェレナに続き、

『こんなの見たことないよ……!』

と呆気にとられながらも、白ご飯を片手に回鍋肉を小皿に取り、ユウカも食べ始めた。

「あ、美味しい」

一口頬張ると、いかにもご飯が進みそうな甘辛いしっかりした味付けが口の中に広がり、食欲がそそられた。

『おなかすいてたからメッチャご飯が進む~っ!』

実はけっこう空腹だったこともあり、彼女は夢中になってそれを食べた。

「お、お嬢ちゃん、いい食べっぷりだねえ! こりゃあ元気な赤ちゃんを産みそうだ!」

ニッカボッカを身に着けた、いかにも昔のドラマ辺りに出てきそうな仕事帰りの大工といった風情の酔客が、嬉しそうに大声で言った。

とは言えそれは明らかにセクハラ発言でもある。

『赤ちゃ……!?』

ユウカは顔を真っ赤にしてしまい、俯いて箸が止まってしまった。それを見たニレアラフタスが、

「くぉら! ゲンザー! 女の子からかうんじゃないっていつも言ってるだろ! しまいに叩き出すよ!!」

角でも生やしそうなニレアラフタスの剣幕に、ゲンザーと呼ばれた酔客の男は頭を掻きながら、

「いやあ、ラフタスに怒られちまったよ、失敬失敬」

とさほど悪びれた感じもしないながらもユウカに向かって頭を下げた。

『あはは……』

苦笑いで応じながら、ユウカは思った。

『本当…こんな、ドラマみたいな世界があるなんて知らなかった……私には縁の無いものだって思ってた……

なるべく他人と関わらないようにして社会の片隅でひっそりと息をひそめて生きていくんだろうなって思ってたし……』

それがこんな、やけに人間関係が濃密な世界に突然放り出されて、なのにそれが思ったほど苦痛じゃなかった。気恥ずかしくて自分からは積極的に話しかけるのは無理だけど、話しかけられるのはそんなに嫌じゃないと感じていた。もといた世界では決してなかったことだった。

それはここの人間達が、彼女を受け入れてくれているのが分かるからだろう。ここの人間達は、無闇に他者を排除し攻撃する必要がないのだ。ただそこにいるものとして、同じ世界に生きるものとして、素直に受け止めているだけなのだ。

山盛りの回鍋肉を、アーシェスやメジェレナと共に食べながら、

『私……なんかやっていけそうかな……』

ユウカは少しずつこの世界に馴染み始めている自分を感じずにはいられなかったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

処理中です...