上 下
8 / 205
転生編

ポルネリッカ・パピリカ、バツイチ独身、作詞家

しおりを挟む
「ありがとうございました。あ、それと私のことは<ユウカ>でいいです」

「OK、ユウカ。これからよろしくね」

自己紹介ができて少し落ち着いた石脇佑香いしわきゆうか=ユウカは、メジェレナに改めて冷蔵庫のお礼をして、アーシェスは今度は六号室のドアをノックした。が、返事がない。

「留守みたいね。じゃあここは次の機会にしようか」

と、とりあえず後回しにして、五号室へ行く。

だが、ノックをする前にアーシェスがユウカに向かって囁くように言った。

「五号室の住人はちょっと気難しい人だから、気を付けてね。一応、今回は挨拶はするけど普段はもうあまり関わらなくていいよ。向こうも関わって欲しくないって思ってるから。そっとしておいてあげてね」

と言われて、急に緊張してくるのを感じた。

『気難しいって…怖い人なのかな……』

さっきのメジェレナが、見た目に似合わず温和な人だっただけに、どんな人が出てくるのかと身構えてしまう。

「ポルネリッカ、いる? アーシェスよ」

…返事がない。ここも留守なのかなとユウカが胸を撫で下ろしかけた時、かちゃりと静かにドアが開いた。しかし開いたのはほんの数センチで、しかもそこから覗いたのは、形も何もはっきりしない真っ黒な<何か>だった。それでも何となく頭かなって思えるところに黄色い光が二つ、浮かんでいるように見えた。目ということなのだろうか。

「…なに…? 忙しいんだけど…」

『うわ~…なんか怖い……』

もういかにも面倒臭い、関わらないでっていうオーラが濃密に放たれてるのを感じ、ユウカは更に委縮した。

「八号室に入る新しい子を紹介しに来たのよ。名前はイシワキユウカ。ユウカって呼んであげて」

アーシェスにそう紹介してもらって、ユウカは恐縮しながら頭を下げた。しかし、輪郭すら曖昧な真っ黒な何かが相手だと表情がさっぱり分からなかった。

「そう…よろしくね。じゃあこれ、あげるから。私のことはそっとしておいて…」

そう言ってポルネリッカがドアの外に置いたのは、携帯音楽プレーヤーらしき機械だった。そしてそのままドアを閉めてしまったのだった。

それを拾い上げてユウカに手渡しながらアーシェスが苦笑いをする。

「彼女はポルネリッカ・パピリカ。あれでも売れっ子の作詞家なの。創作活動に集中したいからってことで殆ど他人とは関わろうとしないわ。その所為で結婚に失敗したりしてたけど、悪いコじゃないのよ。あ、これ、ポルネリッカモデルのEIpodエイポッドだ。メーカーからの試供品だね」

音楽プレーヤーを気前よくくれるのはすごいけれど、その態度が……

『うう……不安だなあ……』

メジェレナとは上手くやっていけそうな気がした分、ユウカはまた不安を感じずにはいられないのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

処理中です...