106 / 112
牢獄の女怪
パヴァーヌ
しおりを挟む
ミカの護送が始まったちょうどその頃、ギロチン台が設置された王宮前広場では、楽団の演奏に合わせて民衆が踊っていた。
<歴史上最も忌むべき悪女>が遂に処刑されることを祝っての、<行列舞踏>だった。
それに参加している誰もが晴れやかに笑顔なのが、むしろ異様だっただろう。何しろその中心には、無数の人間の血を吸って何とも言えない色に染まったギロチン台が鎮座しているのだから。
一方で、ミカを乗せた馬車が通っている辺りでは狂気じみた熱気が満ちている。
だが、実は、この時、遠く離れたある場所では、こことはまったく別の異変が起こっていたのだが、誰もそれに気付かない。
現代地球では情報は秒速で地球の裏側にさえ届くこともあるものの、ここでは異変があった地から王都までさえ、伝令が早馬を駆っても一時間以上掛かる。
ましてやその伝令が押さえられてしまっては、情報など届きようもない。
もちろんミカでさえそれを知る術がなかった。
だから淡々と広場への道程をこなすだけだ。途中、何度も興奮した民衆に囲まれて足止めを受けながらも。
「邪魔をするな! 邪魔をすればお前らもギロチンに掛けるぞ!!」
何度も兵士らが怒鳴りつけ槍を突き付けて押し退ける。
「やれやれ……私としてはさっさと終わらせて欲しいのだがな……」
外の騒ぎの気配を感じ、思わずそんな風に呟きながら苦笑いを浮かべてしまう。
『さっさと終わらせて欲しい』
それがミカの本音だった。こうして平然と振舞うのももう限界なのだ。後もう少しですべて終わりにできると思えばこそギリギリのところで持ち堪えているのだから、早く終わってくれなければ困る。
耐える。
耐える。
ただひたすら耐える。
終わりの瞬間を待ちわびながら。
そうして、本来ならば一時間ほどで到着できるところを二時間以上掛けてようやく王宮が見えるところまで馬車はやってきた。
すると、それを察した者達から順に<行列舞踏>をやめ、馬車の方を注視する。その目にどす黒い感情をよぎらせて。
その気配は波紋のように広がり、やがて楽団も演奏を止めた。
さあ、いよいよだ。いよいよ誰もが待ち望んだ時が訪れる。
にこやかに<行列舞踏>を踊っていた民衆は、先ほどまでとは打って変わって憎悪に表情を歪め、怒声を上げる。
「死ね!」
「死ね!」
「殺せ!!」
「殺せ!!」
ますます押し寄せようとする群衆と、馬車に近付かせまいとする兵士らの間でも緊張が高まる。早くしなければ本当に衝突が起こりそうだ。
しかしそんな状態の中、興奮した群集らとは違う動きを見せるいくつもの集団があったのだが、警備をしていた者達もそれどころではなく、誰も気付く者はいなかったのだった。
<歴史上最も忌むべき悪女>が遂に処刑されることを祝っての、<行列舞踏>だった。
それに参加している誰もが晴れやかに笑顔なのが、むしろ異様だっただろう。何しろその中心には、無数の人間の血を吸って何とも言えない色に染まったギロチン台が鎮座しているのだから。
一方で、ミカを乗せた馬車が通っている辺りでは狂気じみた熱気が満ちている。
だが、実は、この時、遠く離れたある場所では、こことはまったく別の異変が起こっていたのだが、誰もそれに気付かない。
現代地球では情報は秒速で地球の裏側にさえ届くこともあるものの、ここでは異変があった地から王都までさえ、伝令が早馬を駆っても一時間以上掛かる。
ましてやその伝令が押さえられてしまっては、情報など届きようもない。
もちろんミカでさえそれを知る術がなかった。
だから淡々と広場への道程をこなすだけだ。途中、何度も興奮した民衆に囲まれて足止めを受けながらも。
「邪魔をするな! 邪魔をすればお前らもギロチンに掛けるぞ!!」
何度も兵士らが怒鳴りつけ槍を突き付けて押し退ける。
「やれやれ……私としてはさっさと終わらせて欲しいのだがな……」
外の騒ぎの気配を感じ、思わずそんな風に呟きながら苦笑いを浮かべてしまう。
『さっさと終わらせて欲しい』
それがミカの本音だった。こうして平然と振舞うのももう限界なのだ。後もう少しですべて終わりにできると思えばこそギリギリのところで持ち堪えているのだから、早く終わってくれなければ困る。
耐える。
耐える。
ただひたすら耐える。
終わりの瞬間を待ちわびながら。
そうして、本来ならば一時間ほどで到着できるところを二時間以上掛けてようやく王宮が見えるところまで馬車はやってきた。
すると、それを察した者達から順に<行列舞踏>をやめ、馬車の方を注視する。その目にどす黒い感情をよぎらせて。
その気配は波紋のように広がり、やがて楽団も演奏を止めた。
さあ、いよいよだ。いよいよ誰もが待ち望んだ時が訪れる。
にこやかに<行列舞踏>を踊っていた民衆は、先ほどまでとは打って変わって憎悪に表情を歪め、怒声を上げる。
「死ね!」
「死ね!」
「殺せ!!」
「殺せ!!」
ますます押し寄せようとする群衆と、馬車に近付かせまいとする兵士らの間でも緊張が高まる。早くしなければ本当に衝突が起こりそうだ。
しかしそんな状態の中、興奮した群集らとは違う動きを見せるいくつもの集団があったのだが、警備をしていた者達もそれどころではなく、誰も気付く者はいなかったのだった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
18禁の乙女ゲームの悪役令嬢~恋愛フラグより抱かれるフラグが上ってどう言うことなの?
KUMA
恋愛
※最初王子とのHAPPY ENDの予定でしたが義兄弟達との快楽ENDに変更しました。※
ある日前世の記憶があるローズマリアはここが異世界ではない姉の中毒症とも言える2次元乙女ゲームの世界だと気付く。
しかも18禁のかなり高い確率で、エッチなフラグがたつと姉から嫌って程聞かされていた。
でもローズマリアは安心していた、攻略キャラクターは皆ヒロインのマリアンヌと肉体関係になると。
ローズマリアは婚約解消しようと…だが前世のローズマリアは天然タラシ(本人知らない)
攻略キャラは婚約者の王子
宰相の息子(執事に変装)
義兄(再婚)二人の騎士
実の弟(新ルートキャラ)
姉は乙女ゲーム(18禁)そしてローズマリアはBL(18禁)が好き過ぎる腐女子の処女男の子と恋愛よりBLのエッチを見るのが好きだから。
正直あんまり覚えていない、ローズマリアは婚約者意外の攻略キャラは知らずそこまで警戒しずに接した所新ルートを発掘!(婚約の顔はかろうじて)
悪役令嬢淫乱ルートになるとは知らない…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる