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歴史上最も忌むべき悪女

厄介払い

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ルティーニア公国は、帝国、と言うよりはマオレルトン家との繋がりが深い国だった。実は後のマオレルトン家となる人々が建国に大きく貢献したのだ。

ゆえに、マオレルトン家とルティーニア公国の王族とは親戚関係と言ってもいい、実際に血の繋がりもある間柄だった。

そんな背景もあって、マーレは、マオレルトン家に嫁いだ後も自分がいかにセヴェルハムト帝国で幸せに暮らしているか、そしていずれ王になるリオポルドを我が子同然に愛し、その成長を喜んでいるかを滔々と綴った手紙を何度もしたためていたのである。

だからルティーニア公国にとってリオポルドは、友好国の君主であるという以上に、半ば親戚のような縁の深い相手としてあたたかく迎えられた。

一方、そうやってリオポルドを送り出したミカは、

「やれやれ、清々した」

と、一人、自室でほくそ笑んでいた。どうせ帝国の実権はすべて自分が手中に収めている。となればリオポルドの、現実に向かい合おうとしない軟弱さなど、見ていても苛々するだけだった。

それをこうしてていよく厄介払いできたのだから、こんな愉快なことはない。

しかも、リオポルドとウルフェンスがルティーニア公国に迎えれられた直後、セヴェルハムト帝国とを結ぶルートとなっている国とその隣国との間で緊張が高まり、国境が閉鎖されてしまう事態へと至った。

テロであった。ルートがある国の重要な位置にある貴族に対する暗殺未遂事件があり、その実行犯が隣国の兵士だったのだ。

こうなれば、当然、お互いに穏やかではいられない。

国境閉鎖も当然の流れであっただろう。

これにより、リオポルドが帝国に帰還する手段が絶たれてしまった。

もっとも、リオポルドがいなくても、帝国は何一つ困ることはなかったが。

ミカさえいれば、国の機能は何一つ滞ることはない。

そうして、周辺諸国との間ではいろいろと緊張感はありつつも、一応はリオポルドが国王であるとしながらも、ミカは名実共にセヴェルハムト帝国を治める女王、いや、<女帝>となったのである。

そして彼女の右腕は、ネイサンが勤めていた。

『ウルフェンス……俺はお前を信じているぞ。いつかきっと俺の前に帰ってくれるとな』

ネイサンはミカの右腕として辣腕を振るいながらも、友人であるウルフェンスの帰還を待っていた。

だが、ネイサンとウルフェンスの二人は、二度と再会することはなかったと言う。

隣国との国境を封鎖し、ルティーニア公国とセヴェルハムト帝国との唯一と言っていいルートを閉ざしてしまった国が、この後、数年に及ぶ隣国との泥沼の紛争へと突入していくからである。

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