悪しき女帝のためのパヴァーヌ

京衛武百十

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歴史上最も忌むべき悪女

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『人を移動させるのは言うほど簡単ではない。多少苦労が多くとも人は慣れた暮らしを捨てることはすぐには割り切れない。

おそらくはそこでも選別することになるだろうな…』

リオポルドが待つ迎賓館に戻る途中、ミカはそんなことを考えていた。それにより、多くの人間が苦しみ、嘆き、悲しむだろう。憎悪を募らせる者も少なからず出るに違いない。

しかし、国としての機能を高めるには必要なことなのだ。

『大を生かすには小を』とはよく言われるが、ミカの考え方は少し違っていた。

『大が常に優れているとは限らない。多数の怠惰な人間を蔓延らせるというのは国を殺す。今のこの国の支配層がまさにそれなのだ。

有能でなくとも生きる権利は確かにあるだろう。しかしそれは、あくまで国を生かすためのリソースとしてだ』

そう考え、自分にあてがわれた部屋にこもり、自身のアイデアを紙にしたためる。

彼女が書く文字は、まるで模様のようにデザイン化されてはいたものの、かなり読みにくくはなっているものの、見る者が見れば確実に分かる、まぎれもない<日本語>だった。漢字を多用しつつ一部には平仮名とおぼしき文字も混じっているので間違いないだろう。

だが、一人で部屋にいる彼女がそのようなものを黙々としたためていることに気付く者は誰もいない。

一通り書いてから、すでに十枚に達したそれを何度も読み返し、さらに思い付いたことがあれば新たにまた書き加えていく。

それは、凄まじい集中力の上で行われていた。彼女の頭の中は途方もない勢いで回転していることが窺われる。

と、そこに、ドアがノックされ、

「ミカ様、食事の用意が整いましてございます」

と声が掛けられた。

「分かった。しばし待て」

そう返してメモを頑丈そうな革の鞄にしまい、鍵を掛けて他の私物が入った荷物と一緒にする。

それからさっと身支度を整えてドアを開けた。

部屋の外ではやはり二人の侍女が深々と頭を下げて待機していた。

それに案内されて向かうと、迎賓館のホールでは王と王妃を歓待するための準備が整えられていた。

大広間に置かれた巨大なテーブルの上には、数えきれないほどの料理。それは、王と王妃と、この領地を治める貴族だけのために用意されたもの。

僅か数人では食べ切れるはずもないほどの料理。

それを見た瞬間、ミカの表情がまたも凍り付く。ルベルソン領やロイドニア領と比べてもさらに豪華なそれだったからだ。

はっきり言って、ここの経済状況は決して豊かではないはずだった。ミカは実際にその目で見てきた。

なのに、王と王妃を歓迎するという名目の下、こうして虚飾を重ねる。

しかし、王であるリオポルドは、貴族の精一杯の歓迎に上機嫌なのだった。

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