26 / 112
歴史上最も忌むべき悪女
メモ
しおりを挟む
『人を移動させるのは言うほど簡単ではない。多少苦労が多くとも人は慣れた暮らしを捨てることはすぐには割り切れない。
おそらくはそこでも選別することになるだろうな…』
リオポルドが待つ迎賓館に戻る途中、ミカはそんなことを考えていた。それにより、多くの人間が苦しみ、嘆き、悲しむだろう。憎悪を募らせる者も少なからず出るに違いない。
しかし、国としての機能を高めるには必要なことなのだ。
『大を生かすには小を』とはよく言われるが、ミカの考え方は少し違っていた。
『大が常に優れているとは限らない。多数の怠惰な人間を蔓延らせるというのは国を殺す。今のこの国の支配層がまさにそれなのだ。
有能でなくとも生きる権利は確かにあるだろう。しかしそれは、あくまで国を生かすためのリソースとしてだ』
そう考え、自分にあてがわれた部屋にこもり、自身のアイデアを紙にしたためる。
彼女が書く文字は、まるで模様のようにデザイン化されてはいたものの、かなり読みにくくはなっているものの、見る者が見れば確実に分かる、まぎれもない<日本語>だった。漢字を多用しつつ一部には平仮名とおぼしき文字も混じっているので間違いないだろう。
だが、一人で部屋にいる彼女がそのようなものを黙々としたためていることに気付く者は誰もいない。
一通り書いてから、すでに十枚に達したそれを何度も読み返し、さらに思い付いたことがあれば新たにまた書き加えていく。
それは、凄まじい集中力の上で行われていた。彼女の頭の中は途方もない勢いで回転していることが窺われる。
と、そこに、ドアがノックされ、
「ミカ様、食事の用意が整いましてございます」
と声が掛けられた。
「分かった。しばし待て」
そう返してメモを頑丈そうな革の鞄にしまい、鍵を掛けて他の私物が入った荷物と一緒にする。
それからさっと身支度を整えてドアを開けた。
部屋の外ではやはり二人の侍女が深々と頭を下げて待機していた。
それに案内されて向かうと、迎賓館のホールでは王と王妃を歓待するための準備が整えられていた。
大広間に置かれた巨大なテーブルの上には、数えきれないほどの料理。それは、王と王妃と、この領地を治める貴族だけのために用意されたもの。
僅か数人では食べ切れるはずもないほどの料理。
それを見た瞬間、ミカの表情がまたも凍り付く。ルベルソン領やロイドニア領と比べてもさらに豪華なそれだったからだ。
はっきり言って、ここの経済状況は決して豊かではないはずだった。ミカは実際にその目で見てきた。
なのに、王と王妃を歓迎するという名目の下、こうして虚飾を重ねる。
しかし、王であるリオポルドは、貴族の精一杯の歓迎に上機嫌なのだった。
おそらくはそこでも選別することになるだろうな…』
リオポルドが待つ迎賓館に戻る途中、ミカはそんなことを考えていた。それにより、多くの人間が苦しみ、嘆き、悲しむだろう。憎悪を募らせる者も少なからず出るに違いない。
しかし、国としての機能を高めるには必要なことなのだ。
『大を生かすには小を』とはよく言われるが、ミカの考え方は少し違っていた。
『大が常に優れているとは限らない。多数の怠惰な人間を蔓延らせるというのは国を殺す。今のこの国の支配層がまさにそれなのだ。
有能でなくとも生きる権利は確かにあるだろう。しかしそれは、あくまで国を生かすためのリソースとしてだ』
そう考え、自分にあてがわれた部屋にこもり、自身のアイデアを紙にしたためる。
彼女が書く文字は、まるで模様のようにデザイン化されてはいたものの、かなり読みにくくはなっているものの、見る者が見れば確実に分かる、まぎれもない<日本語>だった。漢字を多用しつつ一部には平仮名とおぼしき文字も混じっているので間違いないだろう。
だが、一人で部屋にいる彼女がそのようなものを黙々としたためていることに気付く者は誰もいない。
一通り書いてから、すでに十枚に達したそれを何度も読み返し、さらに思い付いたことがあれば新たにまた書き加えていく。
それは、凄まじい集中力の上で行われていた。彼女の頭の中は途方もない勢いで回転していることが窺われる。
と、そこに、ドアがノックされ、
「ミカ様、食事の用意が整いましてございます」
と声が掛けられた。
「分かった。しばし待て」
そう返してメモを頑丈そうな革の鞄にしまい、鍵を掛けて他の私物が入った荷物と一緒にする。
それからさっと身支度を整えてドアを開けた。
部屋の外ではやはり二人の侍女が深々と頭を下げて待機していた。
それに案内されて向かうと、迎賓館のホールでは王と王妃を歓待するための準備が整えられていた。
大広間に置かれた巨大なテーブルの上には、数えきれないほどの料理。それは、王と王妃と、この領地を治める貴族だけのために用意されたもの。
僅か数人では食べ切れるはずもないほどの料理。
それを見た瞬間、ミカの表情がまたも凍り付く。ルベルソン領やロイドニア領と比べてもさらに豪華なそれだったからだ。
はっきり言って、ここの経済状況は決して豊かではないはずだった。ミカは実際にその目で見てきた。
なのに、王と王妃を歓迎するという名目の下、こうして虚飾を重ねる。
しかし、王であるリオポルドは、貴族の精一杯の歓迎に上機嫌なのだった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる