悪しき女帝のためのパヴァーヌ

京衛武百十

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歴史上最も忌むべき悪女

為政者の仕事

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ミカはその後もウルフェンスと共に領内を巡り、人々の暮らしぶりや働きぶりを見て回った。

フィクションなどではこういう時、えてして虐げられた民衆の姿などが描かれるところだろうが、少なくともこの時にミカが見た範囲では、意外と普通にしていた。

宿場町での収益により潤っているからだろう。子供らは笑顔で遊び、老人がそれを穏やかに見守っている。

平和で平穏な人々の生の姿がそこにはあった。

それ自体は素晴らしいことに違いない。為政者としてこの光景を守るべきなのだと思う。

ただ、それを守っていくためには、やらなければいけないことがある。この領内においてこの光景が実現されているのは、それだけリソースが集中しているからだ。

事実、次の領地に移った時には、そこに広がっていたのは、まるで別の国のそれであるかのような、困窮した人々の暮らしだった。

まあ、確かに、同じセヴェルハムト帝国領内とはいえ、それぞれの領主が統治する自治体のようなものなので、領主の能力によって格差が生じることがあるのも事実ではある。

ロイドニア領に比べ、土は明らかに痩せていた。だが、農耕に不向きかと言われれば、おそらくそうではないのだろう。栽培している作物が適していないのだ。

真面目に勤勉に働いているのにそれに見合うだけの実りを得られていない農民達に、女商人に扮したミカが尋ねる。

「どうして他の作物などを試さないのですか?」

すると年老いた農夫は困ったように笑みを浮かべながら、

「領主様のお言いつけですから。これでないと駄目なのです」

と。

この地を治める貴族は、需要が確かで市場価格が比較的安定している、小麦に似た作物の耕作を領民に命じていたのだ。

なるほどそれも考え方そのものは間違っていないだろう。とは言え、あくまで努力に見合う作物であればの話。

土の質も地形も水の利の点においてもそこは耕作に不向きな場所だった。土の質については改良の余地があるにしても、地の利、水の利という部分においてはそれこそ山を切り崩し大規模な感慨工事を行い、まったくの別物に変えてしまう必要があると思われる。

さすがにそこまでの工事を易々と行えるだけの技術はこの世界にはまだない。百年単位の長期的な計画を立てるのであればまだしも、ほんの数年でどうにかするというのはおよそ現実的ではない。

こういう部分を俯瞰的に見て、それぞれに適した仕事を割り振るというのも為政者の仕事なのだとミカは改めて感じた。

この地を治める人間がそもそも能力に欠けるのであれば、それを更迭し適した人材を据えるのも自分の役目なのだろうと。

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