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歴史上最も忌むべき悪女
当たり前のことを当たり前に
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『今年は作物の出来がよくないので税を減免してほしい』
この要望に対し、王妃ミカの顔は、能面のように固く凍り付いていた。
確かに、天候不順や自然災害に伴う収穫減であれば配慮もしよう。支援もやぶさかではない。しかし今年はそのようなことがあったという報告もなかった。天候は基本的に例年通りで、大きな災害もない。一部の地域ではバッタ(によく似た虫)が大量発生して被害があったという報告もあったものの、逆にそこからは支援の要請は届いていない。
なのでミカは、
『まずは、どのような経緯で収穫が落ち込むことになったのか、その詳細について徹底的に調査し、それを報告書としてまとめよ。
しかる後に対処法および改善策を提示し、その対処法および改善策を実施するに当たって具体的にどのような形の支援が必要であるのか改めて申請せよ』
と書状をしたためた。
また、
『馬に逃げられてしまったので補充してほしい』
という要望に対しては、
『何ゆえ馬に逃げられたのか、まずはその詳細を調査し、報告書としてまとめよ。逃げた馬の捜索は行ったのか? 捕獲は可能か否かを検討したのか?』
と書状をしたためる。
他の要望に対しても詳細の調査と報告を求める内容の書状をしたため、要望書と共に大臣につき返した。
「妃殿下…! これでは……」
書状の一部を一見した大臣が困惑した様子で声を発するが、それに対してミカは、
「なんだ? 私は当たり前のことを当たり前にやれと言っているだけだ。それの何が不満か?
地方の役人共は物乞いか? それとも子供の遣いか? 親の脛を齧るしかできんのなら、それこそ用無しだ。子供にでもやらせておけばいい。子供相手ならば私も無条件に手を貸そう。その代わり、役人共には何もやらん。本当に物乞いにでもなればいい」
冷徹に吐き捨てるように言った。
それを耳にした大臣の顔がカアッと赤く染まる。こぶしを握り締めて睨み返すが、喉まで出掛かった言葉を飲み込み、奥歯をギリリと鳴らしながら、
「承知いたしました。そのように申し付けましょう」
とやっとの思いで口にしながら背を向けた。そして執務室のドアを開けて外に出てすぐ、
「どこの馬の骨とも知れんメス犬風情が…! 陛下の寵愛を受けているからといって調子に乗りおって……!」
小さく吐き捨てる。
そこに、
「おお、ボリントン卿。どうかなさいましたかな? なにやら顔が赤いですぞ」
暢気な調子で声を掛けてくる者がいた。
『ボリントン卿』と呼ばれた大臣がハッと顔を上げると、そこには締まりのない笑みを浮かべた白髪交じりの紳士の姿。
「ああ、これはスーリントン卿。いえ…なんでもありません。私は今から仕事に戻りますので」
そう言いながら立ち去るボリントン卿を、農政を担当する大臣であるスーリントン卿が訝しげに見送ったのだった。
この要望に対し、王妃ミカの顔は、能面のように固く凍り付いていた。
確かに、天候不順や自然災害に伴う収穫減であれば配慮もしよう。支援もやぶさかではない。しかし今年はそのようなことがあったという報告もなかった。天候は基本的に例年通りで、大きな災害もない。一部の地域ではバッタ(によく似た虫)が大量発生して被害があったという報告もあったものの、逆にそこからは支援の要請は届いていない。
なのでミカは、
『まずは、どのような経緯で収穫が落ち込むことになったのか、その詳細について徹底的に調査し、それを報告書としてまとめよ。
しかる後に対処法および改善策を提示し、その対処法および改善策を実施するに当たって具体的にどのような形の支援が必要であるのか改めて申請せよ』
と書状をしたためた。
また、
『馬に逃げられてしまったので補充してほしい』
という要望に対しては、
『何ゆえ馬に逃げられたのか、まずはその詳細を調査し、報告書としてまとめよ。逃げた馬の捜索は行ったのか? 捕獲は可能か否かを検討したのか?』
と書状をしたためる。
他の要望に対しても詳細の調査と報告を求める内容の書状をしたため、要望書と共に大臣につき返した。
「妃殿下…! これでは……」
書状の一部を一見した大臣が困惑した様子で声を発するが、それに対してミカは、
「なんだ? 私は当たり前のことを当たり前にやれと言っているだけだ。それの何が不満か?
地方の役人共は物乞いか? それとも子供の遣いか? 親の脛を齧るしかできんのなら、それこそ用無しだ。子供にでもやらせておけばいい。子供相手ならば私も無条件に手を貸そう。その代わり、役人共には何もやらん。本当に物乞いにでもなればいい」
冷徹に吐き捨てるように言った。
それを耳にした大臣の顔がカアッと赤く染まる。こぶしを握り締めて睨み返すが、喉まで出掛かった言葉を飲み込み、奥歯をギリリと鳴らしながら、
「承知いたしました。そのように申し付けましょう」
とやっとの思いで口にしながら背を向けた。そして執務室のドアを開けて外に出てすぐ、
「どこの馬の骨とも知れんメス犬風情が…! 陛下の寵愛を受けているからといって調子に乗りおって……!」
小さく吐き捨てる。
そこに、
「おお、ボリントン卿。どうかなさいましたかな? なにやら顔が赤いですぞ」
暢気な調子で声を掛けてくる者がいた。
『ボリントン卿』と呼ばれた大臣がハッと顔を上げると、そこには締まりのない笑みを浮かべた白髪交じりの紳士の姿。
「ああ、これはスーリントン卿。いえ…なんでもありません。私は今から仕事に戻りますので」
そう言いながら立ち去るボリントン卿を、農政を担当する大臣であるスーリントン卿が訝しげに見送ったのだった。
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