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歴史上最も忌むべき悪女
婚礼
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彼女、<ミカ=ティオニフレウ=ヴァレーリア>が人々の前に姿を現したのは、時の王、リオポルド=ル=クレルドゥス=モーハンセウとの婚礼の儀の場であった。
遠い異国の王女とも、大陸を股にかける豪商の娘とも噂されてはいるものの、誰もその本当の素性を知らないという謎多き女性だったが、王妃に相応しい煌びやかなドレスに身を包んで王の隣に真っ直ぐに立つその姿は凛として気高く、高貴な魂の持ち主であることを疑う者はいなかったという。
「おめでとうございます!」
「リオポルド陛下、万歳!!」
王国一の広場に集められた、数千人もの人々は口々に祝いの言葉を送り、祝福した。
民衆からの祝辞に、若き王リオポルドは穏やかに微笑みながら手を掲げ、応えている。しかし、その彼の隣に立つ麗しき王妃は、ただ歓喜に沸き立つ民衆を静かに見下ろしていただけだった。
その瞳は、美しいのは間違いなく美しいのだが、どこか冷淡で、感情というものが欠落しているかのようにも見えた。
実際、この時の彼女は、眼前の熱狂を空虚なものとしか見ていなかったのだが。
『茶番ね……』
彼女はそう思っていたのだ。
無理もない。何しろこの婚礼は、対外的な体裁を取繕うためだけに行われた、本当の<茶番劇>だったのだから。
「ありがとう、ミカ。おかげで良い婚礼になったよ」
儀式の後、王の私室に戻ったリオポルドは、自分を見ようともしない彼女に、それこそ揉み手をせんばかりに平身低頭で声を掛けた。
それに対し、ミカは、
「別に…これも私の役目ですから」
と素っ気無い。それはとても愛し合っている<夫婦>のそれではなかった。
もっとも、こういう立場の人間にはよくある話だろう。<政略結婚>などと言われるものも多かっただろうから。
この二人も、つまりはそういうことだった。形だけの結婚…と。
「私はこれからすぐに執務に戻らなければなりません。失礼いたします」
そう言って彼女は、豪奢なドレスの裾を僅かに持ち上げ、するすると滑るように歩き、近付くだけですっと開いたドアを通り抜けて部屋を出て行った。
もちろん自動ドアなどではなく、専門の係の人間がドアの脇に設けられた小さな穴から中を窺っていて、人が近付けばタイミングよく開けるという仕組みである。その係の人間は、この部屋のみを半日ごとの交替で担当し、常に待機しているのだった。
しかも待機しているのはドア係だけではない。彼女の<侍女>である女性も二人、部屋の外に待機していて、廊下を進む彼女に付き従う。
その様子をちらりと一瞥し、新しい<王妃>は、
『くだらない…こんなことをしているから……』
と、口には出さず冷徹な表情を崩さず心の中で呟いたのだった。
遠い異国の王女とも、大陸を股にかける豪商の娘とも噂されてはいるものの、誰もその本当の素性を知らないという謎多き女性だったが、王妃に相応しい煌びやかなドレスに身を包んで王の隣に真っ直ぐに立つその姿は凛として気高く、高貴な魂の持ち主であることを疑う者はいなかったという。
「おめでとうございます!」
「リオポルド陛下、万歳!!」
王国一の広場に集められた、数千人もの人々は口々に祝いの言葉を送り、祝福した。
民衆からの祝辞に、若き王リオポルドは穏やかに微笑みながら手を掲げ、応えている。しかし、その彼の隣に立つ麗しき王妃は、ただ歓喜に沸き立つ民衆を静かに見下ろしていただけだった。
その瞳は、美しいのは間違いなく美しいのだが、どこか冷淡で、感情というものが欠落しているかのようにも見えた。
実際、この時の彼女は、眼前の熱狂を空虚なものとしか見ていなかったのだが。
『茶番ね……』
彼女はそう思っていたのだ。
無理もない。何しろこの婚礼は、対外的な体裁を取繕うためだけに行われた、本当の<茶番劇>だったのだから。
「ありがとう、ミカ。おかげで良い婚礼になったよ」
儀式の後、王の私室に戻ったリオポルドは、自分を見ようともしない彼女に、それこそ揉み手をせんばかりに平身低頭で声を掛けた。
それに対し、ミカは、
「別に…これも私の役目ですから」
と素っ気無い。それはとても愛し合っている<夫婦>のそれではなかった。
もっとも、こういう立場の人間にはよくある話だろう。<政略結婚>などと言われるものも多かっただろうから。
この二人も、つまりはそういうことだった。形だけの結婚…と。
「私はこれからすぐに執務に戻らなければなりません。失礼いたします」
そう言って彼女は、豪奢なドレスの裾を僅かに持ち上げ、するすると滑るように歩き、近付くだけですっと開いたドアを通り抜けて部屋を出て行った。
もちろん自動ドアなどではなく、専門の係の人間がドアの脇に設けられた小さな穴から中を窺っていて、人が近付けばタイミングよく開けるという仕組みである。その係の人間は、この部屋のみを半日ごとの交替で担当し、常に待機しているのだった。
しかも待機しているのはドア係だけではない。彼女の<侍女>である女性も二人、部屋の外に待機していて、廊下を進む彼女に付き従う。
その様子をちらりと一瞥し、新しい<王妃>は、
『くだらない…こんなことをしているから……』
と、口には出さず冷徹な表情を崩さず心の中で呟いたのだった。
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