上 下
2,041 / 2,588
第四世代

深編 虐げられない保障

しおりを挟む
新暦〇〇三八年五月五日



野生で生きる上では、<賃金を得るための労働>なんてのは必要ないよな。まあそもそも<賃金>なんてものが存在しないんだから当然と言えば当然か。

だから<働く>ということについて何かを学ぶ必要もない。生きるために戦うことができればそれで済むし、力が及ばなければただ死ぬだけだ。

しかし、地球人は、<社会>を作るにあたって<仕事>というものを作り、<労働>という概念を生み出してきた。それにより、人間社会で生きることができるようにしてきたわけだ。

なにしろ、野生の動物と同じように、ただただ狩猟や採集によって糧を得るなら、別に労働によって賃金を得る必要はないし、そこに覚えなきゃいけないルールもない。

それはつまり、

『<守らなきゃいけないルール>もない』

ということでもある。

ほまれは、まだまだ未熟な子供でありながら自身の縄張りを主張する雄叫びを上げて他の群れを怒らせたりもしたが、野生の場合は実はそれさえ、

『守らなければいけない』

というわけでもなかったりする。

守らなかった場合は大変なリスクを伴ったりもするものの、敢えてそのリスクを冒すことでむしろ得るものがあったりするのも事実なんだ。

『守らないのは勝手だが、結果はすべて自分が負う』

のが野生ってことだな。

対して地球人の場合は、<人権>というものがある。なにかやらかしても、基本的な人権の部分は守られるわけだ。

無謀な冒険をして遭難しても、救助要請を出せば救助に来てもらえるしな。

実際、有名人が冒険旅行に出発した途端に遭難して救助されるということもあったよな。

さらには、犯罪を犯しても、やっぱり人権については守られるわけで。

別にそれを責めたいわけじゃない。<人間社会>というものを穏当に維持するためには、理由があるからといって排除されるようなことがないのが必要なのは確かだし。

何度も言うように、人間、特に地球人ってのは<恨みを忘れない生き物>だ。そして、虐げられれば武器を手にして抵抗や反撃を試みることもある生き物でもある。つまり、人間を虐げるのは結局のところ社会の不安定化を招くってことだな。

だからこそ、『人権を守る』という形で、

<虐げられない保障>

が必要なんだ。

野生の生き物は、身の危険を感じればその場では抵抗や反撃を行うとしても、時間が経ってから復讐を試みるなんてことはまずしない。そこまで恨みを引きずらないってことだろう。

そして、ルールを守らずにやらかしても影響は限定的だ。最悪、群れが一つどうにかなる程度で済んでしまう。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

精霊のジレンマ

さんが
ファンタジー
普通の社会人だったはずだが、気が付けば異世界にいた。アシスという精霊と魔法が存在する世界。しかし異世界転移した、瞬間に消滅しそうになる。存在を否定されるかのように。 そこに精霊が自らを犠牲にして、主人公の命を助ける。居ても居なくても変わらない、誰も覚えてもいない存在。でも、何故か精霊達が助けてくれる。 自分の存在とは何なんだ? 主人公と精霊達や仲間達との旅で、この世界の隠された秘密が解き明かされていく。 小説家になろうでも投稿しています。また閑話も投稿していますので興味ある方は、そちらも宜しくお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

処理中です...