1,909 / 2,588
第四世代
彗編 泰
しおりを挟む
新暦〇〇三七年十月四日
彗とフォルトナの様子は実に微笑ましいそれで推移してたが、ついに<この時>が来た。
朝、泰が起きてこなかったんだ。翔のパートナーであり、凌やスフィアの父親である泰が。
明らかに衰えてきてたのは分かってたが、まだそれなりに元気そうにも見えてたんだがな……
しかし、『元気そうに見せる』というのは野生の生き物では大事なことかもしれない。明らかに弱っているのを悟られるのはそのまま生命の危機でもあったりするからな。
「あー……っ。あー……っ!」
起きてこない泰の体を抱いて、翔はそう声を上げた。まるで泣いているようにも見えた。
いや、実際にこれが彼女の<悲しみの表現>なんだろう。胸に刺さるものを感じさせるし。
楼羅が突然死してその死を理解できずにミイラ化した我が子をずっと抱いていたりした彼女だけに少し心配もしたが、ひとしきり声を上げた後、彼の体を抱いて巣から地上に降りてきて、そこに横たえた。思った以上に丁寧に。
アクシーズは、パートナーが巣の中で死ぬと、そのまま地上に落とすのが普通だった。ここまで丁重に扱うことは普通はしない。当然だ。そんなことをしている間に天敵にでも襲われたら目も当てられない。
けれど、俺のパートナーである鷹の娘であり、人間の傍で育ったことで彼女には普通のアクシーズにはないメンタリティが芽生えていたのかもしれないな。
加えて、地上にいるボクサー竜は、駿達だ。基本的に互いに不干渉を貫いていたことで襲われる可能性が低いというのが影響していた可能性もあるか。
それがいずれにせよ、翔にできるのはそこまでだった。ここから先は、他の生き物達が泰の体を糧にし、そうして彼は自然の循環へと還っていく。それが<摂理>というものだ。
しかも、翔が巣に戻ってしばらくすると、駿達が通りがかった。すでに他の小さな獣達が群がり始めていた泰の体を、駿達も食らう。生きている間は不干渉であっても、死ねば関係ないということかもしれない。それに、翔ももう、未練がましくはしていなかった。狩りに出掛け、しっかりと獲物を捕らえて命を繋ぐ。
その彼女の命ももう残り少ないだろう。パートナーの泰を亡くしたことでがっくりと弱る可能性もある。地球人の場合は、夫の死後、妻が生き生きし始めることもあったりしたらしいが、それもあくまで個人個人の話だからな。全員がそうなるとは限らない。
明も、角を亡くしてから一気に弱った印象がある。仲が良かったからだろうか。
翔もそうなる可能性はあるだろう。
改めて覚悟しなくちゃな……
我が子を見送るための。
彗とフォルトナの様子は実に微笑ましいそれで推移してたが、ついに<この時>が来た。
朝、泰が起きてこなかったんだ。翔のパートナーであり、凌やスフィアの父親である泰が。
明らかに衰えてきてたのは分かってたが、まだそれなりに元気そうにも見えてたんだがな……
しかし、『元気そうに見せる』というのは野生の生き物では大事なことかもしれない。明らかに弱っているのを悟られるのはそのまま生命の危機でもあったりするからな。
「あー……っ。あー……っ!」
起きてこない泰の体を抱いて、翔はそう声を上げた。まるで泣いているようにも見えた。
いや、実際にこれが彼女の<悲しみの表現>なんだろう。胸に刺さるものを感じさせるし。
楼羅が突然死してその死を理解できずにミイラ化した我が子をずっと抱いていたりした彼女だけに少し心配もしたが、ひとしきり声を上げた後、彼の体を抱いて巣から地上に降りてきて、そこに横たえた。思った以上に丁寧に。
アクシーズは、パートナーが巣の中で死ぬと、そのまま地上に落とすのが普通だった。ここまで丁重に扱うことは普通はしない。当然だ。そんなことをしている間に天敵にでも襲われたら目も当てられない。
けれど、俺のパートナーである鷹の娘であり、人間の傍で育ったことで彼女には普通のアクシーズにはないメンタリティが芽生えていたのかもしれないな。
加えて、地上にいるボクサー竜は、駿達だ。基本的に互いに不干渉を貫いていたことで襲われる可能性が低いというのが影響していた可能性もあるか。
それがいずれにせよ、翔にできるのはそこまでだった。ここから先は、他の生き物達が泰の体を糧にし、そうして彼は自然の循環へと還っていく。それが<摂理>というものだ。
しかも、翔が巣に戻ってしばらくすると、駿達が通りがかった。すでに他の小さな獣達が群がり始めていた泰の体を、駿達も食らう。生きている間は不干渉であっても、死ねば関係ないということかもしれない。それに、翔ももう、未練がましくはしていなかった。狩りに出掛け、しっかりと獲物を捕らえて命を繋ぐ。
その彼女の命ももう残り少ないだろう。パートナーの泰を亡くしたことでがっくりと弱る可能性もある。地球人の場合は、夫の死後、妻が生き生きし始めることもあったりしたらしいが、それもあくまで個人個人の話だからな。全員がそうなるとは限らない。
明も、角を亡くしてから一気に弱った印象がある。仲が良かったからだろうか。
翔もそうなる可能性はあるだろう。
改めて覚悟しなくちゃな……
我が子を見送るための。
0
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる