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第三世代
閑話休題 「夷嶽移送作戦」 後編
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エレクシアを乗せたアリアンは、時速三百キロを超える速度で飛行。二時間足らずで夷嶽の近くまで辿り着いた。そしてエレクシアを下ろす。
「それでは、作戦どおりに」
エレクシアはそう言って、いよいよ<夷嶽移送作戦>を開始する。
もっとも、その内容自体はいたってシンプルだ。
『エレクシアを囮にして夷嶽を挑発。襲い掛かってきたところに麻酔のアンプルを食わせ、様子を見る。一度目で眠らせることができればそれでよし。ダメなら順次濃度を下げた麻酔薬を追加投与する』
というのが、概要だな。そうして眠らせた夷嶽を吊り上げ、そのまま台地の麓まで移送するってだけのものでしかない。
でもまあ、夷嶽を眠らせるまでが大変だが。それについて、ビアンカと久利生が、いくつものプランを提示してくれてた。
が、結論から言うと、最初のプランで大成功だったけどな。ここまで夷嶽の様子について記録してきて、その生態についても詳細に把握した上での確度の高いシミュレーションのおかげだよ。
嶽の時は、排除するしか選択肢がないと思ってたし、実際、あの時にはとにかくデータが不足してた。だから十分なシミュレーションもできなかった。
でも、今は違う。アリアンがあり、十分なデータがあり、多数のロボットがいる。
だからむしろ成功して当然だったんだ。確実に手順通りにこなせば。
自分の前に現れたエレクシアに、夷嶽は猛然と襲い掛かった。この辺りはまったく以前と変わっていない。人間や人間の気配を感じさせるものに対しては、本当に過剰な反応を示す。
自分の牙を弾丸として飛ばしてきたり、電磁パルス攻撃を行ってきたりしたが、ドーベルマンMPM相手にはそれなりに有効だったその攻撃も、エレクシアが相手ではまったく意味がなかった。対物ライフル弾からさえ自分を盾として要人を守るために施された装甲スキンと、電磁的な異常に対してもドーベルマンMPMとは次元の違う対策が施されている彼女には、まるで歯が立たない。
カメラ映像に若干のノイズが入ったり、シールドが甘い左手の義手に多少のエラーが生じただけだ。が、そもそも左手は当てにしていないので、何の問題もない。
で、自分を喰らおうと大口を開けた夷嶽に対して淡々と麻酔薬の入ったアンプルを投与。このアンプルの入れ物は、唾液や胃液に触れると溶けるもので、後は麻酔薬の効果が出てくるまで、エレクシアは夷嶽の攻撃を躱し続けるだけだった。
そして十分ほどで夷嶽は昏倒。アリアンに備え付けられたロボットアームで吊り下げ用のバケットに乗せて、念入りに安全を確認。こうして実際の移送が始まった。
移送自体も極めて順調。二時間をかけて台地の麓まで行き、そこで夷嶽を下ろす。
さらに念のため、他の鵺竜に襲われないように麻酔が覚めるまでその場で待機。間抜けにも寝こけている夷嶽を獲物として狙ってきた鵺竜に対してアリアンが急接近して威嚇。そのあまりに異様な姿を警戒して、鵺竜は退散した。
オオカミ竜に似た小型の鵺竜もいたが、アリアンに恐れをなして近付いてこない。
そうして夷嶽が意識を取り戻したところで離脱。あとは十分に高度を取ってカメラでの監視に移った。
体を起こした夷嶽は豆粒のようなアリアンを睨み付けていたものの、さすがにどうすることもできないのは悟ったか、ただ睨み付けているだけだった。
新暦〇〇三五年十月十五日
こうして<鵺竜の世界>に移った夷嶽はすぐに順応。なんと自分の近似種と番って、子まで生した。
ちなみに夷嶽は雌だったようだ。
後はまあ、野生としてまっとうに生きてくれることを願うだけだよ。
あと、これにてドーベルマンMPM<十七号機><二十三号機><二十五号機>も、夷嶽を誘導する任を解かれ、それぞれ別の役目を負うことになった。
なお、<夷嶽移送作戦>が終わった直後にまた別の厄介事が生じたんだが、それについてはまた後ほど。
「それでは、作戦どおりに」
エレクシアはそう言って、いよいよ<夷嶽移送作戦>を開始する。
もっとも、その内容自体はいたってシンプルだ。
『エレクシアを囮にして夷嶽を挑発。襲い掛かってきたところに麻酔のアンプルを食わせ、様子を見る。一度目で眠らせることができればそれでよし。ダメなら順次濃度を下げた麻酔薬を追加投与する』
というのが、概要だな。そうして眠らせた夷嶽を吊り上げ、そのまま台地の麓まで移送するってだけのものでしかない。
でもまあ、夷嶽を眠らせるまでが大変だが。それについて、ビアンカと久利生が、いくつものプランを提示してくれてた。
が、結論から言うと、最初のプランで大成功だったけどな。ここまで夷嶽の様子について記録してきて、その生態についても詳細に把握した上での確度の高いシミュレーションのおかげだよ。
嶽の時は、排除するしか選択肢がないと思ってたし、実際、あの時にはとにかくデータが不足してた。だから十分なシミュレーションもできなかった。
でも、今は違う。アリアンがあり、十分なデータがあり、多数のロボットがいる。
だからむしろ成功して当然だったんだ。確実に手順通りにこなせば。
自分の前に現れたエレクシアに、夷嶽は猛然と襲い掛かった。この辺りはまったく以前と変わっていない。人間や人間の気配を感じさせるものに対しては、本当に過剰な反応を示す。
自分の牙を弾丸として飛ばしてきたり、電磁パルス攻撃を行ってきたりしたが、ドーベルマンMPM相手にはそれなりに有効だったその攻撃も、エレクシアが相手ではまったく意味がなかった。対物ライフル弾からさえ自分を盾として要人を守るために施された装甲スキンと、電磁的な異常に対してもドーベルマンMPMとは次元の違う対策が施されている彼女には、まるで歯が立たない。
カメラ映像に若干のノイズが入ったり、シールドが甘い左手の義手に多少のエラーが生じただけだ。が、そもそも左手は当てにしていないので、何の問題もない。
で、自分を喰らおうと大口を開けた夷嶽に対して淡々と麻酔薬の入ったアンプルを投与。このアンプルの入れ物は、唾液や胃液に触れると溶けるもので、後は麻酔薬の効果が出てくるまで、エレクシアは夷嶽の攻撃を躱し続けるだけだった。
そして十分ほどで夷嶽は昏倒。アリアンに備え付けられたロボットアームで吊り下げ用のバケットに乗せて、念入りに安全を確認。こうして実際の移送が始まった。
移送自体も極めて順調。二時間をかけて台地の麓まで行き、そこで夷嶽を下ろす。
さらに念のため、他の鵺竜に襲われないように麻酔が覚めるまでその場で待機。間抜けにも寝こけている夷嶽を獲物として狙ってきた鵺竜に対してアリアンが急接近して威嚇。そのあまりに異様な姿を警戒して、鵺竜は退散した。
オオカミ竜に似た小型の鵺竜もいたが、アリアンに恐れをなして近付いてこない。
そうして夷嶽が意識を取り戻したところで離脱。あとは十分に高度を取ってカメラでの監視に移った。
体を起こした夷嶽は豆粒のようなアリアンを睨み付けていたものの、さすがにどうすることもできないのは悟ったか、ただ睨み付けているだけだった。
新暦〇〇三五年十月十五日
こうして<鵺竜の世界>に移った夷嶽はすぐに順応。なんと自分の近似種と番って、子まで生した。
ちなみに夷嶽は雌だったようだ。
後はまあ、野生としてまっとうに生きてくれることを願うだけだよ。
あと、これにてドーベルマンMPM<十七号機><二十三号機><二十五号機>も、夷嶽を誘導する任を解かれ、それぞれ別の役目を負うことになった。
なお、<夷嶽移送作戦>が終わった直後にまた別の厄介事が生じたんだが、それについてはまた後ほど。
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