1,230 / 2,588
第三世代
閑話休題 「夷嶽とドーベルマンMPM その1」
しおりを挟む
新暦〇〇三四年一月二十六日
さて、牙斬のことも今後の課題ではあるが、その一方で、夷嶽についても気にしないわけにはいかない。
ドーベルマンMPMらによる誘導が成功し、夷嶽は順調にビクキアテグ村から遠ざかっていた。現在、その距離、約三百キロ。
あの巨体を維持するのに必要な獲物が確保できる程度にはこの台地の上は豊かであったことも、夷嶽にとっては幸いだっただろう。もっとも、夷嶽のような大型の肉食獣が他にもたくさんいた場合には、たちまち餌が不足するのは目に見えてるけどな。
夷嶽の基になったであろう鵺竜が闊歩する麓は、実は生物の密度もここより圧倒的に高いことが判明している。酸素濃度も気温も湿度も比べ物にならないくらいに高い。まさに恐竜が支配していた頃の地球そのものだろう。
対して、この台地の上では、夷嶽は、俺達以外には自身を脅かすような天敵もいない代わりに、仲間もいない。実に孤独な存在だ。
まあそれについては、蛟も嶽も同じだったけどな。嶽が今でも生きていれば、少なくとも<仲間>にはなれたかもしれないが。
今後も、同じように夷嶽に近い存在が生まれる可能性はゼロではないものの、限りなく低いことも事実だろう。
そのことを思うと、憐れな気もする。
が、俺達にとっては非常に危険な存在であることも事実だから、下手な同情で馴れ合うこともできないけどな。
なお、現在、夷嶽の誘導を行っているのは、三機のドーベルマンMPM、<十七号機><二十三号機><二十五号機>である。アリスシリーズやドライツェンシリーズのように自律行動のためのAIは搭載せず、あくまでコーネリアス号のAIによって制御されるドーベルマンMPMは、基幹ドローンと母艦ドローンを中継して制御と給電を行っている。
なので、あまり離れると制御に若干のタイムラグが生じるのが欠点ではある。
実は、牙斬を移送した時にも、最終的には〇.二秒近いラグが発生していて、もし、牙斬が暴れるようなことがあれば成す術なく蹂躙されるだけだっただろうことは推測されている。
夷嶽を誘導している<十七号機><二十三号機><二十五号機>については、ラグも〇.〇五秒以内で収まっているものの、咄嗟の事態には対処しきれない可能性も否定はできない。できないが、まあ、今のところ、問題はないようだ。
ちなみに、現在、夷嶽は就寝中である。地面に伏せて体を休ませているところだ。
だから<十七号機><二十三号機><二十五号機>も、夷嶽の姿を監視できる距離を保ちつつ、ワイバーン一型が投下した補給物資を用いてお互いのメンテナンスを行っていた。なお、もしこの場での修理ができないような故障や破損が生じた場合には、他のドーベルマンMPMを派遣し交代させることになっている。
牙斬との戦いで破壊されたドーベルマンMPMらも、おおむね修理が終わっているしな。
さて、牙斬のことも今後の課題ではあるが、その一方で、夷嶽についても気にしないわけにはいかない。
ドーベルマンMPMらによる誘導が成功し、夷嶽は順調にビクキアテグ村から遠ざかっていた。現在、その距離、約三百キロ。
あの巨体を維持するのに必要な獲物が確保できる程度にはこの台地の上は豊かであったことも、夷嶽にとっては幸いだっただろう。もっとも、夷嶽のような大型の肉食獣が他にもたくさんいた場合には、たちまち餌が不足するのは目に見えてるけどな。
夷嶽の基になったであろう鵺竜が闊歩する麓は、実は生物の密度もここより圧倒的に高いことが判明している。酸素濃度も気温も湿度も比べ物にならないくらいに高い。まさに恐竜が支配していた頃の地球そのものだろう。
対して、この台地の上では、夷嶽は、俺達以外には自身を脅かすような天敵もいない代わりに、仲間もいない。実に孤独な存在だ。
まあそれについては、蛟も嶽も同じだったけどな。嶽が今でも生きていれば、少なくとも<仲間>にはなれたかもしれないが。
今後も、同じように夷嶽に近い存在が生まれる可能性はゼロではないものの、限りなく低いことも事実だろう。
そのことを思うと、憐れな気もする。
が、俺達にとっては非常に危険な存在であることも事実だから、下手な同情で馴れ合うこともできないけどな。
なお、現在、夷嶽の誘導を行っているのは、三機のドーベルマンMPM、<十七号機><二十三号機><二十五号機>である。アリスシリーズやドライツェンシリーズのように自律行動のためのAIは搭載せず、あくまでコーネリアス号のAIによって制御されるドーベルマンMPMは、基幹ドローンと母艦ドローンを中継して制御と給電を行っている。
なので、あまり離れると制御に若干のタイムラグが生じるのが欠点ではある。
実は、牙斬を移送した時にも、最終的には〇.二秒近いラグが発生していて、もし、牙斬が暴れるようなことがあれば成す術なく蹂躙されるだけだっただろうことは推測されている。
夷嶽を誘導している<十七号機><二十三号機><二十五号機>については、ラグも〇.〇五秒以内で収まっているものの、咄嗟の事態には対処しきれない可能性も否定はできない。できないが、まあ、今のところ、問題はないようだ。
ちなみに、現在、夷嶽は就寝中である。地面に伏せて体を休ませているところだ。
だから<十七号機><二十三号機><二十五号機>も、夷嶽の姿を監視できる距離を保ちつつ、ワイバーン一型が投下した補給物資を用いてお互いのメンテナンスを行っていた。なお、もしこの場での修理ができないような故障や破損が生じた場合には、他のドーベルマンMPMを派遣し交代させることになっている。
牙斬との戦いで破壊されたドーベルマンMPMらも、おおむね修理が終わっているしな。
0
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
精霊のジレンマ
さんが
ファンタジー
普通の社会人だったはずだが、気が付けば異世界にいた。アシスという精霊と魔法が存在する世界。しかし異世界転移した、瞬間に消滅しそうになる。存在を否定されるかのように。
そこに精霊が自らを犠牲にして、主人公の命を助ける。居ても居なくても変わらない、誰も覚えてもいない存在。でも、何故か精霊達が助けてくれる。
自分の存在とは何なんだ?
主人公と精霊達や仲間達との旅で、この世界の隠された秘密が解き明かされていく。
小説家になろうでも投稿しています。また閑話も投稿していますので興味ある方は、そちらも宜しくお願いします。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる