647 / 2,588
新世代
走・凱編 どこまでを人間と見做すか
しおりを挟む
怪物のような姿に生まれてしまった自分自身をビアンカがどう思うかは、俺は彼女じゃないから分からない。
それでも、彼女が、
『こんな姿で生きるくらいなら死にたい!』
と今後思うようになる可能性は決して少なくないと思う。だが、妹のことを見てきて、そしてここでいろいろな姿形になって生きている者達を見てきて、外見や身体機能で生きる生きないを決めるということの非合理さも俺は実感したんだ。
そして、自分で死を選ぶというのは、実は周囲の人間の人生すら大きく変えてしまう可能性のあるものだというのも、妹が自ら死を選ばなかったからこそ今の俺があるという事実を知るからこそ感じるし、軽々に選べないことだと思うんだ。
『死にたいなら自分で死ね!』
とか、
『生きてても苦しいだけだから死を選びたい』
とかも、安易に口にしていいことじゃないというのも感じる。
死にたいと言ってる人間を死なせるのは、間接的とはいえ人間を殺すことでもあるしな。しかも直接手を下さなかったら責任や罪を問われることもない場合もあり、そうなるとある意味では<合法的な殺人>とも言えるだろう。証拠が残る形で追い詰めていったらもちろんそれはそれで罪にも問われるだろうが、身近な人間が『死にたい』と言ってて、取り敢えず体裁だけでも気遣ってるふりをしておけば、助ける気なんかまったくなくても罪も責任も問われることがない形で人を殺せるよな。
妹は、そんな形でも俺に<妹殺し>の宿業を背負わせたくなかったんだろうって今なら思う。
たぶん、逆の立場だったら俺もそう考えるし。俺が楽になるために妹に兄殺しをさせたいとは思わない。そんなことをするくらいなら、自分が苦しんだ方が楽だ。
もっとも、それさえ、正気が保っていられる間だけだろうけどな。正気を失ってしまったら、そんなことも考えてられなくなるのも人間だろう。
妹の場合は。正気を失った時には既に人間としての意識も失ってたからそんなことを考えることさえできなかっただけで。
そんな訳で、ビアンカが『死にたい』と言っても、俺の意志で死なせてやることはない。彼女がいっそ俺達に依存してくれるなら『生きてて良かった』と思わせてやる。その自信はある。
だけど『死にたい』と言われても、その願いは叶えられない。自分が怪物になっていく苦しみの中でさえ俺に<人殺し>をさせなかった妹の想いを無駄にさせられるのは真っ平御免だ。
まったく気付くことがなかったのならどうにもできなくても、彼女が俺達を振り切ってどこかで死を選んでしまったのなら止められなくても、俺達の手の届くところにいる限りは見捨ててやらない。
エレクシア達は彼女を人間と認識できてなくても、俺は彼女を<人間>だと思ってるからな。
でもまあ、ここだとどうしても『どこまでを人間と見做すか?も個人の主観で』って話になるから、どう足掻いても<俺の勝手な判断>ってことになるんだけどな。
それでも、彼女が、
『こんな姿で生きるくらいなら死にたい!』
と今後思うようになる可能性は決して少なくないと思う。だが、妹のことを見てきて、そしてここでいろいろな姿形になって生きている者達を見てきて、外見や身体機能で生きる生きないを決めるということの非合理さも俺は実感したんだ。
そして、自分で死を選ぶというのは、実は周囲の人間の人生すら大きく変えてしまう可能性のあるものだというのも、妹が自ら死を選ばなかったからこそ今の俺があるという事実を知るからこそ感じるし、軽々に選べないことだと思うんだ。
『死にたいなら自分で死ね!』
とか、
『生きてても苦しいだけだから死を選びたい』
とかも、安易に口にしていいことじゃないというのも感じる。
死にたいと言ってる人間を死なせるのは、間接的とはいえ人間を殺すことでもあるしな。しかも直接手を下さなかったら責任や罪を問われることもない場合もあり、そうなるとある意味では<合法的な殺人>とも言えるだろう。証拠が残る形で追い詰めていったらもちろんそれはそれで罪にも問われるだろうが、身近な人間が『死にたい』と言ってて、取り敢えず体裁だけでも気遣ってるふりをしておけば、助ける気なんかまったくなくても罪も責任も問われることがない形で人を殺せるよな。
妹は、そんな形でも俺に<妹殺し>の宿業を背負わせたくなかったんだろうって今なら思う。
たぶん、逆の立場だったら俺もそう考えるし。俺が楽になるために妹に兄殺しをさせたいとは思わない。そんなことをするくらいなら、自分が苦しんだ方が楽だ。
もっとも、それさえ、正気が保っていられる間だけだろうけどな。正気を失ってしまったら、そんなことも考えてられなくなるのも人間だろう。
妹の場合は。正気を失った時には既に人間としての意識も失ってたからそんなことを考えることさえできなかっただけで。
そんな訳で、ビアンカが『死にたい』と言っても、俺の意志で死なせてやることはない。彼女がいっそ俺達に依存してくれるなら『生きてて良かった』と思わせてやる。その自信はある。
だけど『死にたい』と言われても、その願いは叶えられない。自分が怪物になっていく苦しみの中でさえ俺に<人殺し>をさせなかった妹の想いを無駄にさせられるのは真っ平御免だ。
まったく気付くことがなかったのならどうにもできなくても、彼女が俺達を振り切ってどこかで死を選んでしまったのなら止められなくても、俺達の手の届くところにいる限りは見捨ててやらない。
エレクシア達は彼女を人間と認識できてなくても、俺は彼女を<人間>だと思ってるからな。
でもまあ、ここだとどうしても『どこまでを人間と見做すか?も個人の主観で』って話になるから、どう足掻いても<俺の勝手な判断>ってことになるんだけどな。
0
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
精霊のジレンマ
さんが
ファンタジー
普通の社会人だったはずだが、気が付けば異世界にいた。アシスという精霊と魔法が存在する世界。しかし異世界転移した、瞬間に消滅しそうになる。存在を否定されるかのように。
そこに精霊が自らを犠牲にして、主人公の命を助ける。居ても居なくても変わらない、誰も覚えてもいない存在。でも、何故か精霊達が助けてくれる。
自分の存在とは何なんだ?
主人公と精霊達や仲間達との旅で、この世界の隠された秘密が解き明かされていく。
小説家になろうでも投稿しています。また閑話も投稿していますので興味ある方は、そちらも宜しくお願いします。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる