上 下
473 / 2,607
新世代

誉編 日々 その4

しおりを挟む
俺の思っているようなことを口にすると、

『頭がお花畑の平和主義者だ』

とか言うのが必ずいるだろうが、それではなぜ、人間が大規模な全面戦争を回避するようになったのかの説明ができるのか?

局地的な紛争は確かにいまだに起こる。超大国が小国を相手に戦争を行うことはある。だが、超大国同士が全面戦争に突入することについてはとにかく避けようとするのは事実のはずだ。

たとえ、偶発的な衝突が起ころうとも、それを直接のきっかけにして戦争に突入することはない。

『仇を討つこと』を重視するのならば、そのまますぐに戦争に突入するんじゃないのか? たとえ結果として戦争になるとしてもギリギリまで戦争を回避しようとするのは何故なのか?

これは、超大国同士が戦争を行うことのリスクを知ったからじゃないのか?

戦争を避けるというのは、決して綺麗事じゃない。ドラスティックなまでに<実利>を追求すればこそ、たとえ個人の感情を脇においてでも戦争を回避するという判断が行われることもあるんだ。

『戦争を避けることこそが利になる』

と見做されるようになったんだよ。

野生の動物達は、相手を殲滅しようとは基本的にしない。その場にいたものについては皆殺しにしようともすることもあるかもしれないが、逃げたものをわざわざ追いかけてまでということはまずない。

これはまあ、その場にいないものまでどうこうしようという発想がそもそもないからとも言えにせよ、それによって必要以上に争わない仕組みとして成立してるんだろうなというのを、ここで暮らしてみて感じたよ。

だいたい、どんな戦争でもいつかは終わる。で、犠牲者の仇を討つために戦ってる奴は、停戦命令が出たらどうするんだ? 

『仇を討つために戦ってるんだ! 止めるな!!』

と言って戦い続けるのか?

それを考えるだけでも、

『犠牲者の仇を討つ』

なんてのは、戦意高揚のための詭弁に過ぎないことが分かるんじゃないのか?

『禍根を残さないためにも徹底的に叩くべきだ!!』

と主張する人間は、停戦についてどう考えてるんだ? 徹底的に叩く前に終わってるぞ?

戦争を主導している者達の都合で始まってそして終わる。個人の感情や感傷は、実際には考慮されない。<考慮しているフリ>が戦意高揚に利用されることがあるだけ。つまるところそれが戦争の正体だと俺は感じてる。

人間以外の動物は引き際をわきまえてバランスをとろうとしているのに、<万物の霊長>を自称する人間が、動物より愚かな真似をしていていいのか?とは思うな。実際、だからこそたとえ建前ではあっても<戦争の放棄>を掲げているんだろうからな。



と、また話が少々逸れてしまったな。

まあとにかく、ほまれはパパニアンの習性に倣い、縄張り争いを仕掛けてきたボスを敢えて逃がした。

もし再びちょっかいをかけてきたとしても、その時はその時で同じように追い払うだけだろう。何度でも。

ただ、今回、情けない姿を晒したあちらのボスは、群れの中での信頼を失い、ちょうど台頭してきていた若い雄にボスの座を奪われて群れを追われる姿が、後日、監視用ドローンのカメラに捉えられていた。

縄張り争いを仕掛けておいて結果を出せなかった責任を取らされた形と言えるだろうか。

その<元ボス>がこの後、どのような運命をたどるかは分からない。おそらくはそう遠くないうちに<野垂れ死に>することになるんだろうが、それもまた摂理というものだろう。

ほまれだっていずれ年老いて力が衰え、ボスとしての役目を果たせなくなればボスの座を追われてと、同じ運命をたどることだって十分に有り得る。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...