365 / 2,588
幸せ
ボスの交代劇そのものは(普通のことなので)
しおりを挟む
<政変>という単語を選ぶ辺りに奇妙な可笑しさを感じつつも真剣な様子にさすがに笑う気にはなれなかった。
今日は光光とイレーネのチームBは調査に出て留守だ。順が光について行きたがったので、そのお守り役として灯も同行してる。
データの整理をしていたシモーヌがただならぬ気配を感じて家から出てきた。
「何か、あったんですか?」
心配そうに尋ねてくる。
「ああ、実は、誉の群れのボスが、他所からやってきた雄に倒されたらしい」
そう聞いた瞬間、ふっと緊張が解けるのが分かった。ボスの交代劇そのものは普通のことなので、逆に安心したようだ。これが例えば、蛟のようなボノボ人間ではどう足掻いたって対処できない埒外の怪物の襲撃であれば心配もするものの、そうじゃなかった訳で。
その辺りが学者っぽいな。
俺が、何もかも手助けしないように冷静に距離を置こうとできてるのは、シモーヌがいてくれるからというのもあるかもしれない。彼女の学者としての冷静さや一歩引いた姿勢が俺にとっても良い手本になってくれている。シモーヌがいなかったら、俺は、何かある度に手を貸すべきかどうかで思い悩んでたかもしれない。
それが、シモーヌがいることで、彼女が焦った様子になった時には手を貸した方がいい、っていう判断基準になると言うか。
しかし今回は、焦った様子もないからそんなに深刻な事態じゃないってことだろうな。
ただ、念の為、詳しい状況を改めて確認する。
「メイフェア、詳細の報告をたのむ」
「はい、分かりました」
俺の指示で落ち着いたらしいメイフェアが、通信をタブレットに切り替えて話し始める。さすがにエレクシアの体を借りてのままじゃ、違和感が半端なくて俺としても集中して話を聞けないし。
タブレットにメイフェアの顔が表示される。ちなみにこの顔はライブのカメラ映像ではなく、彼女の姿を正確に再現した<アバター>である。
「本日、時刻は十時十分から十時五十分の間と推測されますが、若い雄の個体が縄張りに侵入。ボスと戦いになり勝利。ボスは重傷を負い、先ほど死亡しました。その為、ボスを倒した若い雄が暫定的にボスの座に就いたようです。
ただ、誉様をはじめ、有力な群れの雄が偵察に出ていた間のことでしたので、突然のことに納得できない雄がこれに反発。現在、前ボスの寝床だった木に居座った暫定ボスとの間で緊張状態が続いています。
なお、誉様も、群れの雌や子供達が暫定ボスを警戒していることもあり、他の雄と同調して対立することにした模様です」
今日は光光とイレーネのチームBは調査に出て留守だ。順が光について行きたがったので、そのお守り役として灯も同行してる。
データの整理をしていたシモーヌがただならぬ気配を感じて家から出てきた。
「何か、あったんですか?」
心配そうに尋ねてくる。
「ああ、実は、誉の群れのボスが、他所からやってきた雄に倒されたらしい」
そう聞いた瞬間、ふっと緊張が解けるのが分かった。ボスの交代劇そのものは普通のことなので、逆に安心したようだ。これが例えば、蛟のようなボノボ人間ではどう足掻いたって対処できない埒外の怪物の襲撃であれば心配もするものの、そうじゃなかった訳で。
その辺りが学者っぽいな。
俺が、何もかも手助けしないように冷静に距離を置こうとできてるのは、シモーヌがいてくれるからというのもあるかもしれない。彼女の学者としての冷静さや一歩引いた姿勢が俺にとっても良い手本になってくれている。シモーヌがいなかったら、俺は、何かある度に手を貸すべきかどうかで思い悩んでたかもしれない。
それが、シモーヌがいることで、彼女が焦った様子になった時には手を貸した方がいい、っていう判断基準になると言うか。
しかし今回は、焦った様子もないからそんなに深刻な事態じゃないってことだろうな。
ただ、念の為、詳しい状況を改めて確認する。
「メイフェア、詳細の報告をたのむ」
「はい、分かりました」
俺の指示で落ち着いたらしいメイフェアが、通信をタブレットに切り替えて話し始める。さすがにエレクシアの体を借りてのままじゃ、違和感が半端なくて俺としても集中して話を聞けないし。
タブレットにメイフェアの顔が表示される。ちなみにこの顔はライブのカメラ映像ではなく、彼女の姿を正確に再現した<アバター>である。
「本日、時刻は十時十分から十時五十分の間と推測されますが、若い雄の個体が縄張りに侵入。ボスと戦いになり勝利。ボスは重傷を負い、先ほど死亡しました。その為、ボスを倒した若い雄が暫定的にボスの座に就いたようです。
ただ、誉様をはじめ、有力な群れの雄が偵察に出ていた間のことでしたので、突然のことに納得できない雄がこれに反発。現在、前ボスの寝床だった木に居座った暫定ボスとの間で緊張状態が続いています。
なお、誉様も、群れの雌や子供達が暫定ボスを警戒していることもあり、他の雄と同調して対立することにした模様です」
0
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
精霊のジレンマ
さんが
ファンタジー
普通の社会人だったはずだが、気が付けば異世界にいた。アシスという精霊と魔法が存在する世界。しかし異世界転移した、瞬間に消滅しそうになる。存在を否定されるかのように。
そこに精霊が自らを犠牲にして、主人公の命を助ける。居ても居なくても変わらない、誰も覚えてもいない存在。でも、何故か精霊達が助けてくれる。
自分の存在とは何なんだ?
主人公と精霊達や仲間達との旅で、この世界の隠された秘密が解き明かされていく。
小説家になろうでも投稿しています。また閑話も投稿していますので興味ある方は、そちらも宜しくお願いします。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる