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幸せ

光の器(もはや天使だな)

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新暦〇〇二二年七月八日。



数ヶ月が経ってはるかちからが立て続けに亡くなったことについても気持ちの整理がつき、穏やかな毎日が戻ってきたなと感じていた頃、うちの中でちょっとした変化が起こっていることに俺は気付いた。

ひかり……?」

ひかりだった。ひかりが、どことなくあどけなさも残しつつ見た目にはもうすっかり<大人の男>になったじゅんに絵本を読み聞かせてやってるんだ。

以前は、彼女を前にすると落ち着きをなくして激しく求愛行動を始めてしまい、疲れて落ち着いたと思ってもしばらくするとまた始めてしまうからひかりも少々持て余しているように見えてたんだが、さすがに出逢ってから四年以上も経てば当然かもしれないものの、じゅんが大人しくしている時間が少しずつ長くなってきてた気がする。

だからこれは、じゅんの変化でもあるのか。

これまで、じゅんとしては、己の中に湧きあがる情動に従って熱烈アピールを繰り返していただけなんだが、やっぱりひかりにはそれは刺さらなかったようだ。彼の熱意は認めながらも、彼女にとっては<元気すぎる弟>のようにしか見えてなかったらしい。『弟として可愛い』とは思っていても、<異性>としての関心は抱かれなかったらしい。

が、皮肉なことに、少し落ち着いていられるようになると、ひかりは、自分から彼の隣に座って、シモーヌから譲り受けた絵本を広げ、絵本を読み聞かせ始めたのだった。

どうやらひかりは、それを待ってたらしいな。じゅんが己の気持ちを一方的にアピールしてくるんじゃなくて、自分のペースに少しでも合わせてくれるようになるのを。

それまで根気強く待ってくれていたんだ。じゅんの気持ちは分かっているから。

ひかり自身が言ってたよ。

「私も、じゅんのことは好き。可愛いと思うし、私をすごく好きでいてくれてるのは分かってる。だけど今のあの子の気持ちは私には正直『重い』かな……」

ってさ。

とは言え、じゅんにそんな理屈が通じる訳もなく、話したところで理解できる訳もなく、だから待っててくれたんだ。彼が少し落ち着いてくるのを。

もっとも、『落ち着いた』とは言っても、それはあくまで『以前に比べて』だけどな。

しばらくひかりに付き合ってたかと思ったら急にまた部屋の中を飛び回り出したりっていうのは今でもある。

ただ、ひかりの方もじゅんがその衝動を抑えられないのは理解してくれているらしい。絵本を閉じ、激しく部屋の中を飛び回る姿を、優しく見守ってくれていた。

その様子を見て、あかりが言う。

「お姉ちゃん。ちゃんとじゅんのこと好きなんだよ。ただもうちょっと落ち着いてほしいだけなんだってさ」

あかりじゅんと仲はいいが、こちらはそれこそ弟としか思ってないらしい。もしかしたら三角関係とかも有り得るかなと思っていたものの、それを心配してたのは俺だけだったようだ。

ひかりは、何もかも分かった上でゆったりと構えていたんだ。

本当に、大した器だよ。



ただ、同時に、じゅんの方もこんなに一途にひかりを想い続けてくれるのもすごい。ひかり以外には自分を受け入れてくれる可能性がないのが分かってしまうからというのもあるかもしれないが。

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