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幸せ

自分に都合のいい解釈(に過ぎなくても)

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新暦〇〇二二年五月十八日。



「たまにはいいですね。こうやってぼんやりするのも」

また俺達チームAアルファが休みの日、俺の隣でシモーヌも釣り糸を垂らしていた。その様子が、まるで同じ釣りを趣味にしている老夫婦のようにも思えて、なんだか頬が緩んでしまう。

「だろ? 考え事するのにもちょうどいいし」

「確かに。何の責任も目標もない釣りだからこそ、でしょうけど」

「ああ。魚を捕らえたいだけなら網ですくえばいいのに、わざわざこうやって釣り糸を垂らしてただかかるのを待つ、なんていう<不毛な行為>が今なお趣味として残っている理由が分かる気がするよ。すごく、癒されると言うか」

「分かります。それ」

なんていうやり取りを、エレクシアが見守ってくれている。

それをつい申し訳なく感じてしまうものの、エレクシア自身は決して自分が置かれてる状況を僻んだりすることもない。彼女は<ロボット>だから。

彼女がもし、本当にただの機械にしか見えない、それこそドーベルマンDK-aのようなロボットだったら、こうやって待機してても何とも思わないだろう。むしろ休んでくれてるようにさえ見えるかもしれない。なのに、人間の姿をしているからこそ、申し訳ないような気持ちにもなってしまう。

メイトギアが人間の姿をしてるのは、あくまで心理的な圧迫を和らげる為の筈だった。しかしそれが同時に、必要以上の共感を呼び覚ましてしまって、しなくていい同情をしてしまうというのも、矛盾と言えば矛盾なのか。

なので、

「そこのチェアに腰掛けて、待機しててくれ」

と、わざわざ命令する必要があったりもする。

「承知しました」

彼女はそう応え、俺がいつも使ってるチェアにもたれて待機してくれた。すると不思議なもので、途端に寛いでるようにも見えるんだから、人間の感覚というのは、案外、いい加減なものだと分かる。

彼女はロボットなので、立ちっぱなしでも疲れないし、むしろ咄嗟の対応の為には立っていた方がいいのは分かっているのに、それよりも『立たせっぱなしにしていることの罪悪感を和らげるのを優先』してしまうのも、人間というものか。

まあ、今のところは、そこまで切羽詰まった危険がある訳でもないからな。何か危険な生物が迫ってたとしても、早期警戒網のおかげで早々に対処できるし。

なんてことも、のんびりとぼんやりと考えることができる。いや、実にいいのが見付かったな。

なんだかそれも、はるかちからがもたらしてくれたもののような気がする。

たとえそれがただの『自分に都合のいい解釈』に過ぎなくても、気持ちが休まるのならそう思っておけばいいんだろうな。



ところで、『遺体が埋められてる池で釣った魚なんてよく食べられるな』と思うかもしれないが、ここで長く暮らしてると、命ってのはあくまで循環の一部だっていうのが実感できるのか、なんだか慣れてしまったよ。今じゃあんまり気にならない。

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