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シモーヌ

六人目の嫁(本当にまさかまさかだよ)

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新暦〇〇〇九年二月三日。



「初めまして。イレーネLJ10と申します。錬是れんぜ様」

そう言って俺の前に立ったのは、本来は胸まであったものを傷みが酷かったからセシリアの手で短く整えたために少し赤みがかった栗色の短髪がどこか少年っぽい印象を与える、女性型としてはやや精悍な、何気にエレクシアのそれにも通ずる雰囲気を持ったメイトギアだった。

失われた右前腕はそのままに、右下腿については、あの後でメイフェアが工作室で急遽部材を加工して作ってくれた簡易の義足をフレームに直付けした、まるで童話に出てくる海賊のような姿になったイレーネLJ10に、俺は呆気に取られるしかできないでいた。

まさかまさか、辛うじてとはいえ動作できるまで復元されるとは。

そう、こうやって自ら立って挨拶をしてくれてるとはいえ、イレーネLJ10の機能は大きく損なわれたままで、欠損した四肢だけでなく、本体の機能、特に情報処理能力に大きなダメージが残ったままなのだった。

だから彼女は、自身がイレーネLJ10という、コーネリアス号に配備されたメイトギアであるということ以外、何も覚えていないそうだ。メインフレームの記憶領域は損傷が酷くて(巨大生物の胃酸がボディの損傷個所から浸潤して破壊されたようだ)完全には復元されず、その一方でバックアップ用の内部ストレージそのものは無事でそこにはデータが残っている筈だが、損傷した彼女のシステムはそのストレージを認識できない為にデータを取り出すことができない状態だった。

もっとも、イレーネLJ10としてはストレージにアクセスできなくても、メンテナンス用のカプセルを通じてデータそのもののサルベージはできているので、彼女の身に何が起こったのかについては、そのデータを読み込んだメイフェアとセシリアには分かっている。

やはり推測したとおり、彼女はあの巨大生物と遭遇して襲われ、戦闘を行ったものの生物としては有り得ない強力な攻撃に曝されて破損、機能停止した上に呑み込まれてしまったということが判明したのだった。記録が途切れる直前、巨大生物(Tレックスによく似たまさに恐竜)の口が迫るところまでは映像が残っていたそうだ。

シモーヌやメイフェアやセシリアに帰還を喜んでもらっても彼女が辿った状況を労われても、何一つピンと来ないというイレーネLJ10は、一応、俺を仮のマスターとして、この<群れ>に加わることとなった。

正直、メイトギアとしては十分に機能できない、むしろ俺の庇護を受けることになる彼女は、ある意味では俺の新しい<嫁>ということにもなるのかな。

メイフェアもセシリアもシモーヌも<嫁>じゃなかったから、メイトギアとしてはエレクシアに続く二人目、ひそからを合わせれば六人目の<嫁>ってことなのか。

いや、本当にまさかまさかだよ。

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