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シモーヌ

思い出話 刃 その1

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ひそかの話をしたんなら当然、じんの話もしない訳にはいかないな。まあ、あの不定形生物の話が理解しきれなくて現実逃避してるだけって言われればそうなんだが、さすがに受け止めるにも時間が必要なんだよ。既に数ヶ月が過ぎてても、まだ俺にとっては整理ができてなかった。

で、じんについては、正直、<印象に残ってる思い出>という点においては他の三人に比べるとどうしても不利になるのは否めない。なにしろ、とにかく目立たない存在だったからな。さすがは<姿なき密林のハンター>ってところか。

それでも、だからって彼女のことが他の三人に比べて可愛くないかと言われればまるでそんなことはない。ちゃんと可愛いんだ。

が、いつもふらっといなくなったり、かと思えばいつの間にか隣にいたりというのが彼女だった。

グンタイ竜グンタイの襲撃の時にも改めて感じたが、彼女は、河のこちら側では恐らく密林で最強の生物の一角だろう。エレクシアはそもそも比較対象にならないとしても、グンタイ竜グンタイの小集団くらいなら相手にもならない。彼女とまともに勝負ができるのは、向こう岸のヒト蜘蛛アラクネくらいのものだと思う。

そういう意味では、いつだっていなくなってしまえるのに、群れから追い出されたひそかと違って俺に頼らなきゃいけない理由は別にない筈なのに、俺の前からいなくなろうとはしなかった。

普段は冷淡で、表情も変えられないから何を考えてるのかも掴めないのに俺に甘える時には不思議と雰囲気が緩んでるのがすごく分かった。ぴしっと固い印象のある仕草が途端に柔らかくなるんだ。こういうのは古い言葉で<クーデレ>とか言うんだっけ? じんが<クーデレ>ならさしずめ<ツンデレ>はようかな。俺に対しても割と攻撃的な態度を見せてたし。

って、いかんいかん、今はじんの話だったな。

とにかく、じんのそういうところが可愛かったりする。無表情で冷めてて、なのに俺に甘える時は途端に柔らかい感じになって。

くそう、可愛いなあ……!

あと、生物として見ればほぼ無敵にも思えるじんにも苦手なものがある。それは<魚>だ。不定形生物の主な生息域と推測されてる河には元々近付かなかったからか、じんは魚を見たことがなかったらしいんだ。

動かない魚は別に平気らしいんだが、生きてビチビチと撥ねる魚を目にすると、いつの間にかいなくなってたりする。動くものなら何でも餌だと思うような生態だと最初は思ってたが、必ずしもそうでないことがそれで分かった。最初はてっきり魚は餌にはならないから興味もないだけと思ってたものの、ようがまだ俺の<嫁>じゃなくただの居候だった頃、河で捕まえたらしい魚を生かしたまま持ち帰ってきて、それをうっかりじんの前に落としたことがあった。

すると、地面に落ちた魚がビチビチと撥ねる様子を見たじんが、脱兎のごとく逃げ出して、密林に隠れてしまったのだ。

それもずっと、突然のことに警戒しただけだろうと思ってたんだが、そうじゃなかったらしいんだよな。

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