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ハーレム
意味不明(心臓に悪いからやめてくれよ)
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「私が自爆攻撃でもすると思ったんですか? 相変わらず認識不足ですね、マスター」
体を動かすこともできないほどバッテリーを消耗したにも拘らず、エレクシアの辛辣な口調は相変わらずだった。
腰が抜けて上手く動けない俺が何とか這いずるようにグローブボックスに手を伸ばして中から予備のバッテリーを取り出しても、彼女の口撃は止まない。
「私は故障していませんよ。その私が自身を破壊するような改造を施せる訳がないでしょう。あくまで私自身の回路を通さずに放電できるようにボディーの表面に導線を貼り付けただけです。
まあ、放電の際に発生するであろう誘導電流の影響について若干の想定外の事態は有って、一時的に機能停止してしまいましたが」
そう言われてよく見れば、彼女のボディーの模様に沿って目立たないように平らな導線が走っているのが分かった。それに気付いた瞬間、伏が現れた時に感じた彼女に対する違和感の正体を察した。これの所為で微妙に違って見えていたのだ。まったく、いつの間にこんなことをしてたんだか……
ロボットは嘘は吐けない。とは言え、訊かれなければ事実を喋らないことはできる。俺が訊かなかったから彼女も話さなかったのだろう。やれやれだよ。
だが、俺が予備のバッテリーを持って彼女に近付こうとしたその時、
「ダメです! 錬是様!!」
今度はセシリアCQ202が叫んだ。その声にハッとなってエレクシアを見ると、彼女の体を覆っていたあの不定形生物の一部がまた動き出していたのが分かった。
「くそっ! まだ死んでなかったのか!?」
思わず声を上げるが、同時に何とも言えない違和感もあった。動いてるのは動いてるんだが、俺達に襲い掛かろうとするとか逃げようとするとか、そういう動き方ではないようにも見えたのだ。
「…? なんだ……? これ…」
と言う俺の目の前で、ぬるぬるの粘度の高い液体のようだったそれがまとまって何かの形になっていく。
「…これは、まさか…?」
自分の体に覆いかぶさっていたそれを見たエレクシアも思いがけないものを見たという感じで呟いた。
無理もない。『まさか?』と言いたいのは俺もだったからな。
「人間…? いえ…これは……」
ワニ少年を抱きかかえたセシリアCQ202のその言葉に、俺は思い当たる節があった。
「ワニ少女……?」
透明なのは変わらないが、表面の質感も形も、間違いない。
「確かに、あの時の水生生物の個体ですね…」
目だけをそちらに向けて確認したエレクシアが断定する。そう、あの時、俺達が看取ったワニ少女の姿そのものだったのだ。
透明な体の中で、同じく透明な心臓らしきものがドクンドクンと鼓動を刻んでいるのが見える。何とも言えない奇妙な光景だった。注意深く観察すると、他の臓器もうっすらと確認できる。透明な心臓からは透明な血液らしき液体が送り出されて透明な血管の中を走るのも分かる。
これはいったい……?
訳の分からない状況に混乱しつつも、床に寝そべる透明なワニ少女はさておいて、俺はとにかくエレクシアのバッテリーを交換した。新しいバッテリーで完全に回復したエレクシアが体を起こし、しげしげと透明なワニ少女を眺めていた。
すると今度は、セシリアCQ202が抱きかかえていたワニ少年が暴れ出す。
「あーっ! がーっ!!」
セシリアCQ202の腕を振りほどこうとして噛み付いたりもする。もちろんその程度じゃ彼女は堪えない。それでも腕に歯形が残ってしまった。エレクシアと違ってボディーの強度も標準仕様だからな。
しかし様子を見てると、どうやら透明なワニ少女のことがひどく気になっているらしい。そこで俺は、セシリアCQ202に命じた。
「放してやってみてくれ」
同時にエレクシアには、
「危険があるようなら抑えてくれ」
と命じる。
すると力が緩められたセシリアCQ202の腕を振りほどいて、ワニ少年がワニ少女に縋りついた。
「あーっ、うあーっ!」
透明なワニ少女の体を抱き上げ、彼は声を上げて泣いた。ボロボロと涙が頬を伝う。完全に人間が泣いている時の姿だった。
しかも、ワニ少年に抱き締められたワニ少女の目がゆっくりと開き、不思議そうに彼を見た。これもまた、完全に人間の姿に見えた。透明なのを除けばだが。
「これはどういうことなんだ…?」
困惑する俺に、エレクシアが冷静に語り掛ける。
「擬態、というのとは違うようですね。バイタルサインは完全にこちらの水生生物の雄のそれと同じです。生きています。透明ですが内臓も骨格も全てが再現されています。強度も弾力も変わらないようです」
「ということは…?」
「これはもう、あの水生生物の個体と同じものということです。透明であることを除けば。もしかするとあの水生生物の個体の遺伝情報を取り込んで、それに基づいて全体を再現したのかもしれません」
と言われても、意味が分からない。なんなんだ、こいつは?
呆気にとられる俺達の前で、ワニ少年が透明なワニ少女の顔を舐めまわす。もしやこれが、彼らの愛情表現…か? しかも、ワニ少女の方もまんざらでもないようだった。うっとりとした顔でされるがままになっている。記憶まではないようだが、本能に基く習性まで再現されてるということか?
いやまったく、意味不明な生物だよ。本当に訳が分からないってもんだ。
体を動かすこともできないほどバッテリーを消耗したにも拘らず、エレクシアの辛辣な口調は相変わらずだった。
腰が抜けて上手く動けない俺が何とか這いずるようにグローブボックスに手を伸ばして中から予備のバッテリーを取り出しても、彼女の口撃は止まない。
「私は故障していませんよ。その私が自身を破壊するような改造を施せる訳がないでしょう。あくまで私自身の回路を通さずに放電できるようにボディーの表面に導線を貼り付けただけです。
まあ、放電の際に発生するであろう誘導電流の影響について若干の想定外の事態は有って、一時的に機能停止してしまいましたが」
そう言われてよく見れば、彼女のボディーの模様に沿って目立たないように平らな導線が走っているのが分かった。それに気付いた瞬間、伏が現れた時に感じた彼女に対する違和感の正体を察した。これの所為で微妙に違って見えていたのだ。まったく、いつの間にこんなことをしてたんだか……
ロボットは嘘は吐けない。とは言え、訊かれなければ事実を喋らないことはできる。俺が訊かなかったから彼女も話さなかったのだろう。やれやれだよ。
だが、俺が予備のバッテリーを持って彼女に近付こうとしたその時、
「ダメです! 錬是様!!」
今度はセシリアCQ202が叫んだ。その声にハッとなってエレクシアを見ると、彼女の体を覆っていたあの不定形生物の一部がまた動き出していたのが分かった。
「くそっ! まだ死んでなかったのか!?」
思わず声を上げるが、同時に何とも言えない違和感もあった。動いてるのは動いてるんだが、俺達に襲い掛かろうとするとか逃げようとするとか、そういう動き方ではないようにも見えたのだ。
「…? なんだ……? これ…」
と言う俺の目の前で、ぬるぬるの粘度の高い液体のようだったそれがまとまって何かの形になっていく。
「…これは、まさか…?」
自分の体に覆いかぶさっていたそれを見たエレクシアも思いがけないものを見たという感じで呟いた。
無理もない。『まさか?』と言いたいのは俺もだったからな。
「人間…? いえ…これは……」
ワニ少年を抱きかかえたセシリアCQ202のその言葉に、俺は思い当たる節があった。
「ワニ少女……?」
透明なのは変わらないが、表面の質感も形も、間違いない。
「確かに、あの時の水生生物の個体ですね…」
目だけをそちらに向けて確認したエレクシアが断定する。そう、あの時、俺達が看取ったワニ少女の姿そのものだったのだ。
透明な体の中で、同じく透明な心臓らしきものがドクンドクンと鼓動を刻んでいるのが見える。何とも言えない奇妙な光景だった。注意深く観察すると、他の臓器もうっすらと確認できる。透明な心臓からは透明な血液らしき液体が送り出されて透明な血管の中を走るのも分かる。
これはいったい……?
訳の分からない状況に混乱しつつも、床に寝そべる透明なワニ少女はさておいて、俺はとにかくエレクシアのバッテリーを交換した。新しいバッテリーで完全に回復したエレクシアが体を起こし、しげしげと透明なワニ少女を眺めていた。
すると今度は、セシリアCQ202が抱きかかえていたワニ少年が暴れ出す。
「あーっ! がーっ!!」
セシリアCQ202の腕を振りほどこうとして噛み付いたりもする。もちろんその程度じゃ彼女は堪えない。それでも腕に歯形が残ってしまった。エレクシアと違ってボディーの強度も標準仕様だからな。
しかし様子を見てると、どうやら透明なワニ少女のことがひどく気になっているらしい。そこで俺は、セシリアCQ202に命じた。
「放してやってみてくれ」
同時にエレクシアには、
「危険があるようなら抑えてくれ」
と命じる。
すると力が緩められたセシリアCQ202の腕を振りほどいて、ワニ少年がワニ少女に縋りついた。
「あーっ、うあーっ!」
透明なワニ少女の体を抱き上げ、彼は声を上げて泣いた。ボロボロと涙が頬を伝う。完全に人間が泣いている時の姿だった。
しかも、ワニ少年に抱き締められたワニ少女の目がゆっくりと開き、不思議そうに彼を見た。これもまた、完全に人間の姿に見えた。透明なのを除けばだが。
「これはどういうことなんだ…?」
困惑する俺に、エレクシアが冷静に語り掛ける。
「擬態、というのとは違うようですね。バイタルサインは完全にこちらの水生生物の雄のそれと同じです。生きています。透明ですが内臓も骨格も全てが再現されています。強度も弾力も変わらないようです」
「ということは…?」
「これはもう、あの水生生物の個体と同じものということです。透明であることを除けば。もしかするとあの水生生物の個体の遺伝情報を取り込んで、それに基づいて全体を再現したのかもしれません」
と言われても、意味が分からない。なんなんだ、こいつは?
呆気にとられる俺達の前で、ワニ少年が透明なワニ少女の顔を舐めまわす。もしやこれが、彼らの愛情表現…か? しかも、ワニ少女の方もまんざらでもないようだった。うっとりとした顔でされるがままになっている。記憶まではないようだが、本能に基く習性まで再現されてるということか?
いやまったく、意味不明な生物だよ。本当に訳が分からないってもんだ。
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