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ハーレム
渡河(ようやく先に進めるよ)
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「よし、じゃ、このまま渡河テストを行う」
俺はローバーの点検を兼ねて、予定していた渡河に踏み切ることを決断した。先にも言ったがこのローバーは水陸両用車でもある。本格的にこういう環境で使うのは初めてだから念の為にな。カエル型プローブをさらに射出して水中を監視しながら、俺はゆっくりとローバーを河へと進めていった。
ザブザブと水に入っていくと、途端に車輪が空転するのを感じる。底に届いてない訳じゃないんだが、泥が深くて滑るようだ。慎重にさらに進めると、今度はふわりと車体が浮くのを感じた。そこで、ブランゲッタを始動。船としてしてさらに進む。
ブランゲッタは、宇宙船を浮遊させるのにも使われる重力制御システムのことだ。詳しい原理は俺も知らないが、確かブランゲッタというのは、これを一般用に実用化したカリオン社の登録商標で、正式にはフライングカーペット機構と言うらしい。でもまあ、ブランゲッタの方が通りはいいけどな。
十分な大きさがないと完全に重力を制御できないからローバーに搭載されてるものだと車体までは浮かせられないが、重量を軽減したり、推進機関としてなら使えるんだ。もっとも、推進機関としては重力加速度以上の加速ができないから宇宙船の推進機関としてはロケットにも勝てなかったりするが。まあそれでも、スクリューよりは速度も出しやすいので、こうやって水上水中で使う船用の推進機関には適してるらしい。
なんて説明はどうでもいいとして、ローバーは順調に河を渡っていった。屋根の上の鳥人間はやはり平然としている。これだけの大きさのものが動くということを知っているということか。しかも河に入っても驚かない。
それに対して密は、ひどく落ち着かない様子だった。窓の外を覗き込んではシートに戻って体を丸めるということを何度もしている。よほど怖いのだろう。もしパニックを起こすようだとマズいかもしれないな。
とは言え、一分と掛からず対岸に着いて上陸した。これといって問題はないようだ。すると屋根の上で物音がして、何者かの影が林の中へと消えるのが見えた。ドローンカメラで確認すると、鳥人間の姿がない。ひょっとすると、こうやって対岸に渡るのを見越して利用しようとしたのか? あの翼では対岸まで確実に滑空できる可能性は必ずしも高くないだろうからな。渡るときはこうやって河を渡ろうとしてるやつに便乗するという習性があるのかもしれない。利口な奴だ。
ただそれは同時に、このローバーのようなサイズ感の<何か>がこの河を行き来している可能性をも示唆していた。これまでのところはそれほどのものは見付かっていない。
「エレクシアが河に魚を取りに来た時には、このローバーに比肩するほどのサイズの動物はいたか?」
そんなものがいたなら報告する筈なので見ていないだろうとは思いつつ、念の為に問い掛けてみる。
「いえ、私が魚を捕獲したのはこの本流ではなく手前にあった支流と思しき小さな川でしたが、これまでに目撃されている以外の生物はいませんでした。その痕跡もありませんでした」
「そうか……」
確かに、この河に着く前に幅二メートルほどの小さな川があった。そちらは特に気にせず越えてきたが。
いずれにせよ、これでローバーの機能にも特に問題ないということが確認できたし、いったん戻ってさらに準備をして本格的に調査に出ることにしようか。
俺はローバーをUターンさせ、再び河へと入っていく。また密が怯えていたが、それでもさっきよりはマシになったようだ。大丈夫だということを学習したのかもしれない。その一方で刃は、ずっとシートにちょこんと座ったまま身動き一つしなかったけどな。怯えているのは確かでも、怯え方にも違いがあるのが分かって面白い。
元の岸まで戻り、マイクロドローンとプローブを回収、そのまま宇宙船のところまで帰る。GPSなどはないが、ローバーが通った跡が残っているし、エレクシアが地形を記憶してるので迷うことはない。
ようやく慣れたところまで戻れたからか、密と刃もホッとした感じが伝わってくる。二人にとってはちょっとした冒険だったってことかな。
密は簡易テントで俺のビーチチェアに座って落ち着いて、刃は狩りに行ったようだった。俺とエレクシアはローバーを洗車しつつ点検を行う。同時にプローブが採取した河底の泥を分析機にかけて、成分を調べる。微生物や貴金属類にも値打ちものがあるし、何より俺達にとって危険な細菌類や寄生虫の類がいると困るからな。
ローバーの洗車と点検が終わる頃、分析結果も出た。
「へえ、金の含有率が高いな。上流に金鉱脈でもあるのか? 今の俺にはそれこそ宝の持ち腐れだが。
細菌類はさすがに未知のものが多いか。エレクシアは引き続き、今ある抗細菌薬や医療用ナノマシンで対処できるかの分析を頼む」
「承知しました」
洗車が終わったローバーを目視で点検すると、フロント部分に尖ったもので引っ掻いたような細かい傷が散見された。もしやと思って脚立に上って屋根を見ると、ルーフキャリアなどにも同様の傷が。どうやら鳥人間の爪によるもののようだった。
俺はローバーの点検を兼ねて、予定していた渡河に踏み切ることを決断した。先にも言ったがこのローバーは水陸両用車でもある。本格的にこういう環境で使うのは初めてだから念の為にな。カエル型プローブをさらに射出して水中を監視しながら、俺はゆっくりとローバーを河へと進めていった。
ザブザブと水に入っていくと、途端に車輪が空転するのを感じる。底に届いてない訳じゃないんだが、泥が深くて滑るようだ。慎重にさらに進めると、今度はふわりと車体が浮くのを感じた。そこで、ブランゲッタを始動。船としてしてさらに進む。
ブランゲッタは、宇宙船を浮遊させるのにも使われる重力制御システムのことだ。詳しい原理は俺も知らないが、確かブランゲッタというのは、これを一般用に実用化したカリオン社の登録商標で、正式にはフライングカーペット機構と言うらしい。でもまあ、ブランゲッタの方が通りはいいけどな。
十分な大きさがないと完全に重力を制御できないからローバーに搭載されてるものだと車体までは浮かせられないが、重量を軽減したり、推進機関としてなら使えるんだ。もっとも、推進機関としては重力加速度以上の加速ができないから宇宙船の推進機関としてはロケットにも勝てなかったりするが。まあそれでも、スクリューよりは速度も出しやすいので、こうやって水上水中で使う船用の推進機関には適してるらしい。
なんて説明はどうでもいいとして、ローバーは順調に河を渡っていった。屋根の上の鳥人間はやはり平然としている。これだけの大きさのものが動くということを知っているということか。しかも河に入っても驚かない。
それに対して密は、ひどく落ち着かない様子だった。窓の外を覗き込んではシートに戻って体を丸めるということを何度もしている。よほど怖いのだろう。もしパニックを起こすようだとマズいかもしれないな。
とは言え、一分と掛からず対岸に着いて上陸した。これといって問題はないようだ。すると屋根の上で物音がして、何者かの影が林の中へと消えるのが見えた。ドローンカメラで確認すると、鳥人間の姿がない。ひょっとすると、こうやって対岸に渡るのを見越して利用しようとしたのか? あの翼では対岸まで確実に滑空できる可能性は必ずしも高くないだろうからな。渡るときはこうやって河を渡ろうとしてるやつに便乗するという習性があるのかもしれない。利口な奴だ。
ただそれは同時に、このローバーのようなサイズ感の<何か>がこの河を行き来している可能性をも示唆していた。これまでのところはそれほどのものは見付かっていない。
「エレクシアが河に魚を取りに来た時には、このローバーに比肩するほどのサイズの動物はいたか?」
そんなものがいたなら報告する筈なので見ていないだろうとは思いつつ、念の為に問い掛けてみる。
「いえ、私が魚を捕獲したのはこの本流ではなく手前にあった支流と思しき小さな川でしたが、これまでに目撃されている以外の生物はいませんでした。その痕跡もありませんでした」
「そうか……」
確かに、この河に着く前に幅二メートルほどの小さな川があった。そちらは特に気にせず越えてきたが。
いずれにせよ、これでローバーの機能にも特に問題ないということが確認できたし、いったん戻ってさらに準備をして本格的に調査に出ることにしようか。
俺はローバーをUターンさせ、再び河へと入っていく。また密が怯えていたが、それでもさっきよりはマシになったようだ。大丈夫だということを学習したのかもしれない。その一方で刃は、ずっとシートにちょこんと座ったまま身動き一つしなかったけどな。怯えているのは確かでも、怯え方にも違いがあるのが分かって面白い。
元の岸まで戻り、マイクロドローンとプローブを回収、そのまま宇宙船のところまで帰る。GPSなどはないが、ローバーが通った跡が残っているし、エレクシアが地形を記憶してるので迷うことはない。
ようやく慣れたところまで戻れたからか、密と刃もホッとした感じが伝わってくる。二人にとってはちょっとした冒険だったってことかな。
密は簡易テントで俺のビーチチェアに座って落ち着いて、刃は狩りに行ったようだった。俺とエレクシアはローバーを洗車しつつ点検を行う。同時にプローブが採取した河底の泥を分析機にかけて、成分を調べる。微生物や貴金属類にも値打ちものがあるし、何より俺達にとって危険な細菌類や寄生虫の類がいると困るからな。
ローバーの洗車と点検が終わる頃、分析結果も出た。
「へえ、金の含有率が高いな。上流に金鉱脈でもあるのか? 今の俺にはそれこそ宝の持ち腐れだが。
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「承知しました」
洗車が終わったローバーを目視で点検すると、フロント部分に尖ったもので引っ掻いたような細かい傷が散見された。もしやと思って脚立に上って屋根を見ると、ルーフキャリアなどにも同様の傷が。どうやら鳥人間の爪によるもののようだった。
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