神河内沙奈の人生

京衛武百十

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彼女の幸せ

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それは、彼女にとってもほぼ十年ぶりの感覚だった。熱く固いものに自分の体の中が押し広げられるその感触は、昔はただ不快で吐き気すら催すものでしかなかった筈にも拘らず、自分が受け入れているのが彼のモノだと思えばむしろ愛おしく思えて仕方なかった。

ぞわぞわと体の奥深くから脳天へと走り抜ける痺れも心地好い。その甘いような痺れに身を任せ、彼女は自分の体が勝手に動くままにそれに溺れた。生まれて初めてその行為をただ<気持ちいい>と感じた。一見すると幼くも見えつつも実際には十分に成熟した彼女の肉体が、その刺激を許容出来るようになったというのもあるかもしれない。

彼の腰に擦り付けるように自らの腰を動かすと、彼女の最も敏感な部分も適度にこすりつけられてびくっびくっと体を跳ねさせた。それらすべてを貪欲に味わい尽くそうとでもするかのように彼女はさらに全身をうねらせる。全身が上気し、汗が吹き出して肌を濡らし、えもいわれぬ色香を放っていた。

彼女の唇からは、普段は決して聞かれぬ甘い吐息が漏れ、切なそうに濡れた瞳が宙を泳いだ。

「す、き……すき…、スキ…すき…スき、すき……」

吐息と共にうわ言のように彼女は何度もそう言った。それが『彼のことが好き』と言っているのか『気持ち良いのが好き』と言っているのかは判然としなかったが、しかし彼女がこの行為を望んでやってることだけは伝わってきた。

やがて、意味のある言葉にすらならぬ明らかな喘ぎが漏れてくるに至って、彼女は忘我の境地に達しているのが誰の目にも明らかだった。

「あ…あぅ、あぁっ、んっ…、んぅう、んぁああぁ…!」

『美しい』

この時の彼女の姿をそう表現しても何もおかしくはなかっただろう。彼女自身がそれを望み愛おしんでいたのだ。そこに、かつて男の身勝手な欲望に蹂躙され踏みにじられてきた彼女はもういなかった。彼女はただ、幸せに酔いしれていただけだった。

やがて彼女の体に力がこもり、その内部で何かをぎゅうっと締め上げるのが見えるかのように体を丸め、びくん、びくんと何度も大きく痙攣し、声も出せないくらいに彼女は強く果てたのだった。それに合わせるかのように、彼の方もびくっと体を震わせた。彼女の最も深いところで同じように果てたのである。

この日を境に、彼女は毎晩のように彼を求めるようになった。彼もまた、彼女の求めに応じてその身を任した。そしてそれは、彼女の体に次の変化が現れるまで続いた。この半年ほど後に、彼女の胸が明らかに二回りほど大きくなり、下腹部が一目で分かるほどに膨らんでくるまでだった。

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