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伊藤玲那のミス
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伊藤玲那も既に三十代半ば。一般的な男子高校生なら<おばさん>と称して毛嫌いもするかもしれないが、今でも十分に美しいと言って差し支えない伊藤玲那に対して多実徳英功の<想い>ははち切れる寸前だった。
幼い子供の心理については理解のある伊藤玲那も、今のほぼ大人と変わりない彼の性的な衝動までは完全には理解出来ていなかったと言えるだろう。いや、むしろ、理解したくないという無意識の想いがそれを拒ませていたのかもしれない。だから彼への対処も、本当はもっと適した人間に任せるべきだったのだ。
しかし人間というものはどうしてもミスをしてしまう生き物でもある。今回の伊藤玲那の最大の過ちは、
『私なら彼のことを分かってあげられるかもしれない』
という思い上がりだったのかもしれない。
確かに、在校中の彼への対応は適切だった。彼が過ちを犯さないように上手く誘導していた。
だがそれはあくまで『当時の彼に対しては』という注釈がつくものであって、肉体的にも心理的にもほぼ成人と大きくは違わない今の彼に対しては必ずしも当てはまらなかったのである。なまじ彼のことを知っているだけに、彼女はその部分で判断を誤ってしまったのだった。それに加えて自分はもう三十代半ば。
『高校生の男の子から見たら私なんて、ただの<おばさん>だもんね……』
という油断もあった。
もっとも、判断を誤ったのは伊藤玲那一人ではない。実は小学校側も、毎日のように卒業生を放課後の教室に招き入れ二人きりでカウンセリングを行っているその行為を問題視する意見も出てはいたのだ。だが、吉泉小学校随一の問題児である山下沙奈をこれまで見事に抑えてきたその実績を過大に評価し、
『任せておいても大丈夫だろう』
という甘い見通しで放置していたことも大きなミスであった。
伊藤玲那の適性は、あくまで山下沙奈のようなケースにのみ特化したものであって、決して万能ではなかったのだから。
そういう諸々の判断ミスが重なり、その事件は起こってしまった。
ある日の放課後、いつものように伊藤玲那に話を聞いてもらっていた多実徳英功が突然、掴み掛ってきたのだ。
「多実徳くん……っ!?」
強く抱き締められ唇を奪われ、彼女はフラッシュバックによるパニックを起こしてしまった。
「いや……いやぁああぁあぁあぁぁっっ!!」
絶叫し、恐怖に歪んだ顔で涙をこぼしながら自分を見る伊藤玲那の姿に、多実徳英功も混乱した。
「せ…先生……っ!?」
泣き叫ぶのを黙らせようと彼女に再び掴み掛り、口を押えようとする。
バランスを崩して机をなぎ倒しながら転倒しそうになった時、突然教室に入ってきた人影が、二人に飛び掛かったのだった。
幼い子供の心理については理解のある伊藤玲那も、今のほぼ大人と変わりない彼の性的な衝動までは完全には理解出来ていなかったと言えるだろう。いや、むしろ、理解したくないという無意識の想いがそれを拒ませていたのかもしれない。だから彼への対処も、本当はもっと適した人間に任せるべきだったのだ。
しかし人間というものはどうしてもミスをしてしまう生き物でもある。今回の伊藤玲那の最大の過ちは、
『私なら彼のことを分かってあげられるかもしれない』
という思い上がりだったのかもしれない。
確かに、在校中の彼への対応は適切だった。彼が過ちを犯さないように上手く誘導していた。
だがそれはあくまで『当時の彼に対しては』という注釈がつくものであって、肉体的にも心理的にもほぼ成人と大きくは違わない今の彼に対しては必ずしも当てはまらなかったのである。なまじ彼のことを知っているだけに、彼女はその部分で判断を誤ってしまったのだった。それに加えて自分はもう三十代半ば。
『高校生の男の子から見たら私なんて、ただの<おばさん>だもんね……』
という油断もあった。
もっとも、判断を誤ったのは伊藤玲那一人ではない。実は小学校側も、毎日のように卒業生を放課後の教室に招き入れ二人きりでカウンセリングを行っているその行為を問題視する意見も出てはいたのだ。だが、吉泉小学校随一の問題児である山下沙奈をこれまで見事に抑えてきたその実績を過大に評価し、
『任せておいても大丈夫だろう』
という甘い見通しで放置していたことも大きなミスであった。
伊藤玲那の適性は、あくまで山下沙奈のようなケースにのみ特化したものであって、決して万能ではなかったのだから。
そういう諸々の判断ミスが重なり、その事件は起こってしまった。
ある日の放課後、いつものように伊藤玲那に話を聞いてもらっていた多実徳英功が突然、掴み掛ってきたのだ。
「多実徳くん……っ!?」
強く抱き締められ唇を奪われ、彼女はフラッシュバックによるパニックを起こしてしまった。
「いや……いやぁああぁあぁあぁぁっっ!!」
絶叫し、恐怖に歪んだ顔で涙をこぼしながら自分を見る伊藤玲那の姿に、多実徳英功も混乱した。
「せ…先生……っ!?」
泣き叫ぶのを黙らせようと彼女に再び掴み掛り、口を押えようとする。
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