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対面
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その日、神河内良久は、中学高校と親交があり、成人してからも時折顔を合わす程度の交流はあった藍繪汐治からの久々の電話で、自宅に顔を出したいと申し出を受けた。仕事が一段落付いた後で取り立てて予定もなかったことからそれを受け入れたが、電話口でのどこか焦っているかのような口調には若干の違和感も覚えずにはいられなかった。
約束の時間よりも三十分も早く藍繪汐治が訪ねてきて、インターホン越しにその姿を見た時、違和感の正体を知った。彼は、少女を一人伴っていた。年齢は十二、いや、十一歳くらいだろうか。適当に鋏で切り揃えただけのような不自然に一直線になった前髪以外はほぼ伸ばし放題という髪が撥ねて広がりまるで鬣の様にも思える。インターホンのモニター越しに見る限りは、そんな感じの少女だった。
「悪い、こいつを預かってくれねーか? 俺の姪っ子なんだけどよ。俺、バイトだし金無くて学校にも行かせてやれなくてよ。でもお前なら金はありそうだし、お前しか頼めるやつはいないんだよ。な、頼む!」
ドアを開けて客間に通しソファーに座った途端、藍繪汐治がそう言って頭を下げた。
だがその言葉に大きな嘘が含まれていることは、神河内良久にも分かっていた。この男はどうしようもない人間の屑だ。彼はそのことを良く知っていた。しかし、そんな屑とそれなりに気が合った自分もまた人間の屑であることを、彼は自覚していた。だが、藍繪汐治が言う通り、自分には少なくとも経済的な余裕がある。昔から手先が器用で物を作ることに長けていたのを活かして作った人形が評判を呼び、次々と製作の依頼が舞い込んでそれに応じているうちに、郊外で街の中心部に比べれば地価も安いとはいえそこに自宅兼アトリエの7LDKの家を新築出来る程度の収入は得られるようになっていたのだった。
藍繪汐治が話している間、預かってほしいと連れてきた少女は陰鬱に押し黙り、神河内良久を睨み付けるように可愛げの欠片もない視線を向けていた。それが単なる人見知りなどでないことは、彼にもすぐに分かった。いや、この時、彼は既に感じていたのだ。この少女が自分に近い存在だということを。自分と同種の人間だということを。だから彼は言った。
「分かったよ。僕が預かってやる…」
神河内良久のその言葉に藍繪汐治は頭を上げて縋りつくように「ありがてえ、恩に着るぜ!」と声を上げた。だがこいつがそんな殊勝な性根を持った人間でないこともまた、神河内良久は理解していた。自分にこの少女を押し付けられることに心底ホッとしているだけだ。
こうして山下沙奈は、この家に住むことになったのである。
約束の時間よりも三十分も早く藍繪汐治が訪ねてきて、インターホン越しにその姿を見た時、違和感の正体を知った。彼は、少女を一人伴っていた。年齢は十二、いや、十一歳くらいだろうか。適当に鋏で切り揃えただけのような不自然に一直線になった前髪以外はほぼ伸ばし放題という髪が撥ねて広がりまるで鬣の様にも思える。インターホンのモニター越しに見る限りは、そんな感じの少女だった。
「悪い、こいつを預かってくれねーか? 俺の姪っ子なんだけどよ。俺、バイトだし金無くて学校にも行かせてやれなくてよ。でもお前なら金はありそうだし、お前しか頼めるやつはいないんだよ。な、頼む!」
ドアを開けて客間に通しソファーに座った途端、藍繪汐治がそう言って頭を下げた。
だがその言葉に大きな嘘が含まれていることは、神河内良久にも分かっていた。この男はどうしようもない人間の屑だ。彼はそのことを良く知っていた。しかし、そんな屑とそれなりに気が合った自分もまた人間の屑であることを、彼は自覚していた。だが、藍繪汐治が言う通り、自分には少なくとも経済的な余裕がある。昔から手先が器用で物を作ることに長けていたのを活かして作った人形が評判を呼び、次々と製作の依頼が舞い込んでそれに応じているうちに、郊外で街の中心部に比べれば地価も安いとはいえそこに自宅兼アトリエの7LDKの家を新築出来る程度の収入は得られるようになっていたのだった。
藍繪汐治が話している間、預かってほしいと連れてきた少女は陰鬱に押し黙り、神河内良久を睨み付けるように可愛げの欠片もない視線を向けていた。それが単なる人見知りなどでないことは、彼にもすぐに分かった。いや、この時、彼は既に感じていたのだ。この少女が自分に近い存在だということを。自分と同種の人間だということを。だから彼は言った。
「分かったよ。僕が預かってやる…」
神河内良久のその言葉に藍繪汐治は頭を上げて縋りつくように「ありがてえ、恩に着るぜ!」と声を上げた。だがこいつがそんな殊勝な性根を持った人間でないこともまた、神河内良久は理解していた。自分にこの少女を押し付けられることに心底ホッとしているだけだ。
こうして山下沙奈は、この家に住むことになったのである。
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