神河内沙奈の人生

京衛武百十

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彼女の日常

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山下沙奈やましたさなは、他人が自分に対して優しくするということを理解できなかった。いや、優しい人間がいるということが理解できないと言った方がいいだろうか。他人は常に暴力的で横暴で支配的で理不尽なものであるというのが、彼女の認識だった。

だから、自分に対して何も要求せず命令せずただ与えてくれるという行為を受け入れることができないのだ。そこには何か別の意図があり、うっかりそれを受け入れたりすればもっと酷い目に遭わされるに違いないと、明確な思考ではなく動物的な感覚として警戒していたのである。

その為、保護されて入院している間も、施設にいる間も、出された食事には殆ど手を着けようとしなかった。それは、人間に虐待された犬が人間を警戒して懐こうとしない様子に酷似していた。

その一方で、生きるのに最低限必要な分程度は看護師や施設の職員の目を盗むようにして口にしていた故に命は繋げた。とは言え、保護された時に比べ多少はマシになり見るだけで命の危険まで感じるほどのものではなくなりつつも、痩せ細った枯れ枝のような体は劇的には改善されなかった。

なのに、藍繪汐治らんかいせきじに引き取られて、彼の性的欲求に応えた報酬として与えられたコンビニ弁当のような食事については、好き嫌いを見せることなく全部食べた。皮肉なことに、要求に応じた見返りとして食事を与えるという手順が彼女にとっては必要だということがそれで判明した。過酷過ぎる状況に過剰適応した結果なのだろう。しかしそのことが彼女の回復に一役買ったというのも事実だという外ない。

ただ、彼女の為の食事としてコンビニ弁当を買ってきたりしていた藍繪汐治に比べて、網螺春喜あみらはるきの方は、気分が良ければ総菜パンなどを買ってきてくれることもあったが、基本的には自分の食べ残しの残飯を彼女に与えるだけだった。そのくせ、彼女の体を玩具で弄び、その様子をビデオカメラで録画しては、その手の動画を買い取ってくれる業者に売って金に換えるということを繰り返していた。

ある日には、朝、介護用の吸水シートを敷いたベッドに寝かせた彼女の手足をテープで拘束した上で、胸や局部といった部分にローターをテープで固定し、「そこから動くなよ。漏らすんならそのままやってもいいからよ」と命じたまま外出して夕方までパチンコ三昧ということもあった。弄ばれる彼女の姿を録画した動画がいい値で売れるようになったことで、網螺春喜はバイトも辞めてそれだけで生計を立てるようになったのである。そして自分は思う存分、パチンコに興じるということだ。

帰った時には当然のように彼女は尿も便も漏らした状態だったが、網螺春喜は拘束を解いた彼女自身にその始末をやらせ、自身は買ってきた弁当を食べ、その残りを彼女に与えた。

これが、網螺春喜の下での彼女の日常であった。 

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