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夢
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『ゆっくり確認させてもらおう』
そう言った舞華に対し、<あさぎ>は、千治に「もういい、台を戻せ」と命じられてそっと戻し、にっこりとあどけない笑顔を湛えながら言った。
「驚かせてごめんなさい。だけど私は皆さんのお役に立ちたいんです。それがバディの役目です」
小さな子供が大人っぽく振る舞って言っているかのような、どこか微笑ましくてくすぐったささえ感じるそれにそれに対して舞華が問い掛ける。
「私達の役に立ちたいんだな?」
<あさぎ>が応える。
「はい。私は皆様方の相方となる為に作られた<バディ>です。それが私の役目ですから」
その受け答えは、最初に動いた時に比べれば若干、丁寧な物言いになっていた。ある程度は状況を把握したことでそれに合わせてきたのかもしれない。
そんな<あさぎ>に舞華は再び問う。
「お前は私達の味方なんだな?」
今もなおやや強張った表情の舞華に、機械の少女は爛漫と言ってもいい笑顔を振りまきながら、
「もちろんです。だからどんどん役立ててください」
と、愛くるしいまでの表情を見せた。
この世界の人間達がすっかり忘れてしまっていた、輝くような姿だった。
「お前は本当に変な奴だな」
舞華はそう言って苦笑いを浮かべる。
それに対して<あさぎ>は、
「すいません。私、そういう風に作られてますから」
などと言いながら照れくさそうに頭を掻いた。
そんな様子に舞華は毒気を抜かれたのか、フッと笑みを作って、そしてその場にいた全員をぐるりと見回し、
「では、私の責任においてこの<バディ>をしばらく試すことにする。それでいいな?」
ときっぱりと言った。
千治はもちろん素直に頷いて、美園も戸惑いながらも頷いて、二人の老科学者も、不本意ながらも仕方ないという感じで頷いた。
そしてその夜は、バディを清見村の集会所へと移動させ、そこで、千治、舞華、美園、老科学者達、美園の秘書の二人及び、舞華の秘書の三人全員が泊まり込み、翌日一日も使ってバディを評価することとなった。
その頃、重蔵の家で、浅葱は、そんなこととも露知らず、酔っぱらっていい気分で寝て、夢を見ていた。
それは、彼女が<ねむりひめ>と名付けたメイトと共に氷窟を掘り進め、遂には地上へと達するという夢だった。
彼女の夢の中の地上は、光に包まれ、とても暖かく、でも何もない世界であった。
今の世界しか知らない浅葱には、緑や花や色鮮やかな光景というものがそもそも知識としてなかったのである。
彼女にとっては、<こことは違う世界>とは、ただ単に氷に閉ざされていない世界というだけでしかなかったのであった。
そう言った舞華に対し、<あさぎ>は、千治に「もういい、台を戻せ」と命じられてそっと戻し、にっこりとあどけない笑顔を湛えながら言った。
「驚かせてごめんなさい。だけど私は皆さんのお役に立ちたいんです。それがバディの役目です」
小さな子供が大人っぽく振る舞って言っているかのような、どこか微笑ましくてくすぐったささえ感じるそれにそれに対して舞華が問い掛ける。
「私達の役に立ちたいんだな?」
<あさぎ>が応える。
「はい。私は皆様方の相方となる為に作られた<バディ>です。それが私の役目ですから」
その受け答えは、最初に動いた時に比べれば若干、丁寧な物言いになっていた。ある程度は状況を把握したことでそれに合わせてきたのかもしれない。
そんな<あさぎ>に舞華は再び問う。
「お前は私達の味方なんだな?」
今もなおやや強張った表情の舞華に、機械の少女は爛漫と言ってもいい笑顔を振りまきながら、
「もちろんです。だからどんどん役立ててください」
と、愛くるしいまでの表情を見せた。
この世界の人間達がすっかり忘れてしまっていた、輝くような姿だった。
「お前は本当に変な奴だな」
舞華はそう言って苦笑いを浮かべる。
それに対して<あさぎ>は、
「すいません。私、そういう風に作られてますから」
などと言いながら照れくさそうに頭を掻いた。
そんな様子に舞華は毒気を抜かれたのか、フッと笑みを作って、そしてその場にいた全員をぐるりと見回し、
「では、私の責任においてこの<バディ>をしばらく試すことにする。それでいいな?」
ときっぱりと言った。
千治はもちろん素直に頷いて、美園も戸惑いながらも頷いて、二人の老科学者も、不本意ながらも仕方ないという感じで頷いた。
そしてその夜は、バディを清見村の集会所へと移動させ、そこで、千治、舞華、美園、老科学者達、美園の秘書の二人及び、舞華の秘書の三人全員が泊まり込み、翌日一日も使ってバディを評価することとなった。
その頃、重蔵の家で、浅葱は、そんなこととも露知らず、酔っぱらっていい気分で寝て、夢を見ていた。
それは、彼女が<ねむりひめ>と名付けたメイトと共に氷窟を掘り進め、遂には地上へと達するという夢だった。
彼女の夢の中の地上は、光に包まれ、とても暖かく、でも何もない世界であった。
今の世界しか知らない浅葱には、緑や花や色鮮やかな光景というものがそもそも知識としてなかったのである。
彼女にとっては、<こことは違う世界>とは、ただ単に氷に閉ざされていない世界というだけでしかなかったのであった。
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