上 下
20 / 88

しおりを挟む
『ゆっくり確認させてもらおう』

そう言った舞華まいかに対し、<あさぎ>は、千治せんじに「もういい、台を戻せ」と命じられてそっと戻し、にっこりとあどけない笑顔を湛えながら言った。

「驚かせてごめんなさい。だけど私は皆さんのお役に立ちたいんです。それがバディの役目です」

小さな子供が大人っぽく振る舞って言っているかのような、どこか微笑ましくてくすぐったささえ感じるそれにそれに対して舞華が問い掛ける。

「私達の役に立ちたいんだな?」

<あさぎ>が応える。

「はい。私は皆様方の相方となる為に作られた<バディ>です。それが私の役目ですから」

その受け答えは、最初に動いた時に比べれば若干、丁寧な物言いになっていた。ある程度は状況を把握したことでそれに合わせてきたのかもしれない。

そんな<あさぎ>に舞華は再び問う。

「お前は私達の味方なんだな?」

今もなおやや強張った表情の舞華に、機械の少女は爛漫と言ってもいい笑顔を振りまきながら、

「もちろんです。だからどんどん役立ててください」

と、愛くるしいまでの表情を見せた。

この世界の人間達がすっかり忘れてしまっていた、輝くような姿だった。

「お前は本当に変な奴だな」

舞華はそう言って苦笑いを浮かべる。

それに対して<あさぎ>は、

「すいません。私、そういう風に作られてますから」

などと言いながら照れくさそうに頭を掻いた。

そんな様子に舞華は毒気を抜かれたのか、フッと笑みを作って、そしてその場にいた全員をぐるりと見回し、

「では、私の責任においてこの<バディ>をしばらく試すことにする。それでいいな?」

ときっぱりと言った。

千治はもちろん素直に頷いて、美園も戸惑いながらも頷いて、二人の老科学者も、不本意ながらも仕方ないという感じで頷いた。

そしてその夜は、バディを清見きよみ村の集会所へと移動させ、そこで、千治、舞華、美園、老科学者達、美園の秘書の二人及び、舞華の秘書の三人全員が泊まり込み、翌日一日も使ってバディを評価することとなった。



その頃、重蔵じゅうぞうの家で、浅葱あさぎは、そんなこととも露知らず、酔っぱらっていい気分で寝て、夢を見ていた。

それは、彼女が<ねむりひめ>と名付けたメイトと共に氷窟を掘り進め、遂には地上へと達するという夢だった。

彼女の夢の中の地上は、光に包まれ、とても暖かく、でも何もない世界であった。

今の世界しか知らない浅葱あさぎには、緑や花や色鮮やかな光景というものがそもそも知識としてなかったのである。

彼女にとっては、<こことは違う世界>とは、ただ単に氷に閉ざされていない世界というだけでしかなかったのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

ショウドウ ~未開の惑星に転生した男、野生を生きる~

京衛武百十
SF
俺の名は相堂幸正(しょうどうゆきまさ)。惑星探査船コーネリアス号で移住可能な惑星を探す任務に就いてたんだが、どうやら遭難しちまったらしい。しかもそこは地球にそっくりな<特A>と分類される惑星だったものの、得体のしれない透明な化け物に襲われて、俺は呆気なく命を落としたみてえだな。 落としたらしいはずなんだが、気が付いたら裸で河の中にいた。そこでも猛獣だかなんだかに襲われたもののこっちについては返り討ちにしてやった。 しかし俺以外のメンバーは見当たらず、不時着したはずのコーネリアス号もねえ。 仕方なく俺はそこで生きることにしたんだが、でも、悪くねえ。俺にはこっちの生き方の方が合ってたようだ。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

処理中です...