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ロボット花嫁、アリシアのブライダル狂騒曲
安藤桃香、愛する人を想う
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「紫音」
「良ちゃん♡」
良純がアルビオンに出張となって四日。アンドゥの閉店作業をしていたところに電話がかかってきて、紫音の声が裏返っていた。
「作業は私がしておきますので、紫音さんはそのままお電話を続けてください」
白百合2139-PBとして働いている千堂アリシアがそう告げると、
「ごめんね。ありがとう」
紫音は申し訳なさそうにしながらも、良純との電話が続けられることに嬉しさが隠せない様子だった。そんな彼女の姿も、アリシアはデータとして取り込む。
「悪い、まだ仕事中だったか」
いつもならアンドゥが閉店している時間だったことで電話をかけてきた良純が口にすると、
「ううん、大丈夫。今日はちょっとお客さんが多かっただけだから。もう終わるところだよ」
甘えるように紫音が応える。人間の場合、アリシアに仕事を押し付けて恋人とのイチャイチャを取ったように見える彼女の振る舞いに憤る者もいるかもしれないが、アリシアにとってはこれすら貴重な<サンプル>なので、まったく苦にならない。ちゃんと意味があるのだ。
それに、閉店作業や開店作業をメイトギアなどに任せるような店舗も決して少なくない。それを人間の手でやろうとしているアンドゥがむしろ珍しいのだ。
母親の桃香が、仕事については『自分の目で確認しないと安心できない』という部分もあるがゆえに。
それ以外については大雑把なように見える桃香も、仕事に対しては<拘り>があるということか。
ただし桃香は厨房が担当なため、売り場については娘の紫音に一任している。それにまで口出しはしないし、何より白百合2139-PB(千堂アリシア)を信頼しているので問題なかった。
加えて、娘が良純の声を聞いて幸せそうにしているのを邪魔したくなかったというのもある。
自分はもう、愛する人の声を聞くことができないゆえに……
映像などは残っている。場合によっては、メイトギアにカスタマイズを施して亡くなった人を再現しようとする者もいる。そういう商売も存在する。けれど桃香にとってそれは『違う』ようだった。大変におっとりしているようにも見える桃香だが、仕事に対する拘りからも窺えるように、鋭い感覚も持ち合わせており、<機械的に再現された愛する人>に対しては違和感が酷いらしい。
そんなこともあり、『会える時に会う』『話せる時に話す』というのをとても大切にしていた。千堂アリシアもそれについては実感がある。
タラントゥリバヤや間倉井医師のことを思うと。
「良ちゃん♡」
良純がアルビオンに出張となって四日。アンドゥの閉店作業をしていたところに電話がかかってきて、紫音の声が裏返っていた。
「作業は私がしておきますので、紫音さんはそのままお電話を続けてください」
白百合2139-PBとして働いている千堂アリシアがそう告げると、
「ごめんね。ありがとう」
紫音は申し訳なさそうにしながらも、良純との電話が続けられることに嬉しさが隠せない様子だった。そんな彼女の姿も、アリシアはデータとして取り込む。
「悪い、まだ仕事中だったか」
いつもならアンドゥが閉店している時間だったことで電話をかけてきた良純が口にすると、
「ううん、大丈夫。今日はちょっとお客さんが多かっただけだから。もう終わるところだよ」
甘えるように紫音が応える。人間の場合、アリシアに仕事を押し付けて恋人とのイチャイチャを取ったように見える彼女の振る舞いに憤る者もいるかもしれないが、アリシアにとってはこれすら貴重な<サンプル>なので、まったく苦にならない。ちゃんと意味があるのだ。
それに、閉店作業や開店作業をメイトギアなどに任せるような店舗も決して少なくない。それを人間の手でやろうとしているアンドゥがむしろ珍しいのだ。
母親の桃香が、仕事については『自分の目で確認しないと安心できない』という部分もあるがゆえに。
それ以外については大雑把なように見える桃香も、仕事に対しては<拘り>があるということか。
ただし桃香は厨房が担当なため、売り場については娘の紫音に一任している。それにまで口出しはしないし、何より白百合2139-PB(千堂アリシア)を信頼しているので問題なかった。
加えて、娘が良純の声を聞いて幸せそうにしているのを邪魔したくなかったというのもある。
自分はもう、愛する人の声を聞くことができないゆえに……
映像などは残っている。場合によっては、メイトギアにカスタマイズを施して亡くなった人を再現しようとする者もいる。そういう商売も存在する。けれど桃香にとってそれは『違う』ようだった。大変におっとりしているようにも見える桃香だが、仕事に対する拘りからも窺えるように、鋭い感覚も持ち合わせており、<機械的に再現された愛する人>に対しては違和感が酷いらしい。
そんなこともあり、『会える時に会う』『話せる時に話す』というのをとても大切にしていた。千堂アリシアもそれについては実感がある。
タラントゥリバヤや間倉井医師のことを思うと。
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