愛しのアリシア

ロボット花嫁、アリシアのブライダル狂騒曲

ジョージ・アルバート・ウィリアム・フレデリック、檄を飛ばす

一方、その頃、アルビオンにおいても、都市の母体となっている＜アルビオン社＞の現CEO、

＜ジョージ・アルバート・ウィリアム・フレデリック＞

の指揮の下、事態の収拾に向けて全力を振り絞っている状態だった。

「汚染の状況の把握はどこまで進んだか！？」

黒いシルクのトップハット、ピークドラペルかつシングルブレストの黒い上着、グレーのウエストコート、パリッと糊の効いた純白のターンダウンカラーを持つ淡いブルーのワイシャツ、シルクのネクタイ、グレーのコールズボンという、まさに＜絵に描いたようなジョン・ブル＞ないでたちのいかめしい男性が、毛足の長い絨毯が敷かれた床をステッキで突きつつ声を上げている。

なお、風刺画などで用いられる＜ジョン・ブル＞は太って描かれていることが多いものの、アルビオンでは、

『肥満は甘えである』

という考えが支配的なので、少なくとも社会的に地位のある人物の多くは肥満体形ではなかった。医学的にも肥満を解消するための治療法は確立されていて、疾患が素になっているものでなければ過度な肥満体形の人間は少数派である。ただし同時に、体脂肪率一桁台などという極端な痩身も、

『瘦せた野良犬のようでみすぼらしい』

とされて敬遠される傾向にあるが。

それは余談なのでさて置くとして、とにかく、いささか芝居じみた様子ではあるものの、CEO自らが指揮を執って事態に当たるのは、アルビオンの伝統でもあった。

また、アルビオンのCEOには代々、いささか選民主義的だったり民族主義的だったりという傾向のある人物が就くことが多く、ジョージ・アルバート・ウィリアム・フレデリックも、

「黄色い猿などから買ったりするからだ……！」

的に忌々し気に呟いたりもしていた。とは言え、それを露骨に公の場で口にしたりはしない程度の分別はわきまえている。フィクションにありがちな＜悪役然＞とした者が責任ある立場に就けることはそうそうないのだ。

ゆえに、

『しかし、他の都市からの報告がないのは奇妙ではあるな……』

とも考えていた。だから、

「他の都市で同様の不良が確認されていないかを、精査せよ」

そういう指示も与えている。

なお、アルビオンでは、Aiやロボットへの依存度を下げる目的もあり、あくまで人間の手によって社会は運営されるべきという考えが主流だった。ゆえに、商品などの管理についても原則、人の手によって行われている。ロボットはどこまでも人間に隷属するものであり、それにふさわしい仕事を任せるとされていたのだった。