愛しのアリシア

ロボットトラベラー、アリシアの火星のんびり紀行

千堂アリシア、タラントゥリバヤに問い掛ける

結局、タラントゥリバヤは自らあの結末に至る道を選んでしまったのだろう。彼女の境遇がその在り方を作ったのだとしても、選択肢は他にもあったはずなのだから。

かつてはその＜選択肢＞がそもそも見せかけでしかなく、よほどの強運や、普通の人間ではできないほどの努力を重ねなければ掴めないものであって、およそ選びようがなかったりもしただろうが、少なくとも現在の火星であれば、様々な都市に自由に移り住むこともできたし、手厚いケアを受けることもできたはずなのだ。ロボットを嫌っていても、明帆野あけぼののような集落は他にもいくつもある。

辺境の小さな集落と言えば、フィクションの中などではたいてい、

＜狭隘な価値観に固執した排他的なコミュニティ＞

として描かれていることも多く、そういうイメージで見る者も少なくないと言われてるものの、確かに地球ではそういう例も見られなくはないものの、実は＜アルビオン＞や＜カルクラのある辺りを自国の領土と主張している自称・国家の都市＞のように、地球由来の文化や価値観の再現を試みているのは、むしろ都市の方であったりもする。＜ボリショイ・ゴーロト＞もその一つであった。

タラントゥリバヤ自身がその辺りをどのように認識していたのかは本人が亡くなっているためすでに確認しようもないが、そういう一面的な認識に囚われていたのだとしたら、本当に不幸であっただろう。

また、残念ながら千堂アリシアと出逢った時点ですでに、

『何の落ち度もない被害者を自身の一方的な復讐心によって殺害』

していたので終身刑は免れなかっただろうが、それでも自らの罪と向き合うための丁寧かつ長期間にわたる矯正プログラムの中には、自身の過去の妄執から解き放たれるためのケアが行われるため、それにより自身が犯した罪を正当化する前提を覆され悔恨の日々を過ごすようになる受刑者も多いのだという。

もっともそれは、人間のように苦痛を感じることのないロボットを使うことで徹底したケアが実践できるという面もあり、その意味ではタラントゥリバヤに対してどの程度の効果が見込まれたかは不明だが。

もしかすると彼女は、それも見越して、たとえ刑務所に収監されても自分は救われないと思い込んでしまっていたのかもしれない。

さりとて、＜ロボットを嫌悪する人間用のプログラム＞を取り入れている刑務所も実はある。

いずれにせよ、実際には様々な＜道＞はあったのだ。なのに彼女は自らそれらを切り捨ててしまった。だからこその、

『貴女はこれで本当に良かったのですか……？』

という問い掛けなのだった。