愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボットトラベラー、アリシアの火星のんびり紀行

人間社会、建前と本音を使い分ける

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現在、地球においても火星においても、

<性的なサービスを提供する店舗>

で働いている<人間>は、基本的には管理者だけである。現場を統括するマネージャーはいても、実際にサービスを提供するのは<ラブドール>と呼ばれるロボットだった。これは、

<性的搾取の根絶>

という建前と、

<人間であるがゆえに捨てきれない根源的な欲求>

という本音とで折り合いをつけることを目指した結果だった。

ちなみに、

<直接の身体的接触を行わない接待を提供するサービス>

については、生身の人間が働いていたりもする。あくまで<身体的な接触>のあるなしで線引きが行われている段階だった。

これについては現在も様々に議論は行われているのものの、根本的な解決には至っていない。

『ロボットを性的搾取の道具にするな!!』

という意見もあるのだが、これまでにも触れてきたとおり、ロボットに本来<性>は存在しない。生物ではないのだから当然だ。また、人間ではない上に<心>も持たないのだから<感情>もなく、<苦痛>も感じない。

『靴が、人間に足蹴にされて臭いや細菌に曝されることを苦痛に感じるか?』

『下着が、人間の不潔な部分に触れさせられていることを苦痛に感じるか?』

『鼻毛シェーバーが、人間の鼻の穴に突っ込まれることを苦痛に感じるか?』

『便器が、人間の糞尿を受け止めることを苦痛に感じるか?』

ということだ。道具に<尊厳>を見出してしまうと、それこそ何もできなくなってしまう。道具は道具と割り切ることが大切なのだ。

『いかに人間に似せて作られていようとも、ロボットは<道具>である。道具として大切に使うことは尊いとしても、人間扱いするのは違うのだ』

というのが、基本的なコンセンサスとなっている。

こういう部分でも、人間の<矛盾>が浮き彫りになってくる。道具を便利に使いつつ、その道具に<人間味>や<尊厳>を見出してしまうこともあるという矛盾である。

そして<色街>や<歓楽街>は、それこそ人間の<矛盾>の塊のような場所だ。

「じゃ、俺は仕事してるからよ。アリシアは観光を楽しんでてくれ」

そう言って右琉澄うるずは、自分が勤めるバーの従業員用の出入り口へと消えた。

「ありがとうございます」

千堂アリシアは丁寧に頭を下げて、それから改めて周囲を見回した。JAPAN-2ジャパンセカンドにももちろんこういう場所はあるものの、主人の千堂京一せんどうけいいちがあまり好まないのでほとんど近付くこともなかった。バーなどについては<接待>という形で入ることもあるが、千堂らが利用するのはもっと警備体制も整えられた高級なホテルなどの中にあるそれが基本だったのだ。

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