607 / 804
ロボットトラベラー、アリシアの火星のんびり紀行
人間社会、建前と本音を使い分ける
しおりを挟む
現在、地球においても火星においても、
<性的なサービスを提供する店舗>
で働いている<人間>は、基本的には管理者だけである。現場を統括するマネージャーはいても、実際にサービスを提供するのは<ラブドール>と呼ばれるロボットだった。これは、
<性的搾取の根絶>
という建前と、
<人間であるがゆえに捨てきれない根源的な欲求>
という本音とで折り合いをつけることを目指した結果だった。
ちなみに、
<直接の身体的接触を行わない接待を提供するサービス>
については、生身の人間が働いていたりもする。あくまで<身体的な接触>のあるなしで線引きが行われている段階だった。
これについては現在も様々に議論は行われているのものの、根本的な解決には至っていない。
『ロボットを性的搾取の道具にするな!!』
という意見もあるのだが、これまでにも触れてきたとおり、ロボットに本来<性>は存在しない。生物ではないのだから当然だ。また、人間ではない上に<心>も持たないのだから<感情>もなく、<苦痛>も感じない。
『靴が、人間に足蹴にされて臭いや細菌に曝されることを苦痛に感じるか?』
『下着が、人間の不潔な部分に触れさせられていることを苦痛に感じるか?』
『鼻毛シェーバーが、人間の鼻の穴に突っ込まれることを苦痛に感じるか?』
『便器が、人間の糞尿を受け止めることを苦痛に感じるか?』
ということだ。道具に<尊厳>を見出してしまうと、それこそ何もできなくなってしまう。道具は道具と割り切ることが大切なのだ。
『いかに人間に似せて作られていようとも、ロボットは<道具>である。道具として大切に使うことは尊いとしても、人間扱いするのは違うのだ』
というのが、基本的なコンセンサスとなっている。
こういう部分でも、人間の<矛盾>が浮き彫りになってくる。道具を便利に使いつつ、その道具に<人間味>や<尊厳>を見出してしまうこともあるという矛盾である。
そして<色街>や<歓楽街>は、それこそ人間の<矛盾>の塊のような場所だ。
「じゃ、俺は仕事してるからよ。アリシアは観光を楽しんでてくれ」
そう言って右琉澄は、自分が勤めるバーの従業員用の出入り口へと消えた。
「ありがとうございます」
千堂アリシアは丁寧に頭を下げて、それから改めて周囲を見回した。JAPAN-2にももちろんこういう場所はあるものの、主人の千堂京一があまり好まないのでほとんど近付くこともなかった。バーなどについては<接待>という形で入ることもあるが、千堂らが利用するのはもっと警備体制も整えられた高級なホテルなどの中にあるそれが基本だったのだ。
<性的なサービスを提供する店舗>
で働いている<人間>は、基本的には管理者だけである。現場を統括するマネージャーはいても、実際にサービスを提供するのは<ラブドール>と呼ばれるロボットだった。これは、
<性的搾取の根絶>
という建前と、
<人間であるがゆえに捨てきれない根源的な欲求>
という本音とで折り合いをつけることを目指した結果だった。
ちなみに、
<直接の身体的接触を行わない接待を提供するサービス>
については、生身の人間が働いていたりもする。あくまで<身体的な接触>のあるなしで線引きが行われている段階だった。
これについては現在も様々に議論は行われているのものの、根本的な解決には至っていない。
『ロボットを性的搾取の道具にするな!!』
という意見もあるのだが、これまでにも触れてきたとおり、ロボットに本来<性>は存在しない。生物ではないのだから当然だ。また、人間ではない上に<心>も持たないのだから<感情>もなく、<苦痛>も感じない。
『靴が、人間に足蹴にされて臭いや細菌に曝されることを苦痛に感じるか?』
『下着が、人間の不潔な部分に触れさせられていることを苦痛に感じるか?』
『鼻毛シェーバーが、人間の鼻の穴に突っ込まれることを苦痛に感じるか?』
『便器が、人間の糞尿を受け止めることを苦痛に感じるか?』
ということだ。道具に<尊厳>を見出してしまうと、それこそ何もできなくなってしまう。道具は道具と割り切ることが大切なのだ。
『いかに人間に似せて作られていようとも、ロボットは<道具>である。道具として大切に使うことは尊いとしても、人間扱いするのは違うのだ』
というのが、基本的なコンセンサスとなっている。
こういう部分でも、人間の<矛盾>が浮き彫りになってくる。道具を便利に使いつつ、その道具に<人間味>や<尊厳>を見出してしまうこともあるという矛盾である。
そして<色街>や<歓楽街>は、それこそ人間の<矛盾>の塊のような場所だ。
「じゃ、俺は仕事してるからよ。アリシアは観光を楽しんでてくれ」
そう言って右琉澄は、自分が勤めるバーの従業員用の出入り口へと消えた。
「ありがとうございます」
千堂アリシアは丁寧に頭を下げて、それから改めて周囲を見回した。JAPAN-2にももちろんこういう場所はあるものの、主人の千堂京一があまり好まないのでほとんど近付くこともなかった。バーなどについては<接待>という形で入ることもあるが、千堂らが利用するのはもっと警備体制も整えられた高級なホテルなどの中にあるそれが基本だったのだ。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
死の惑星に安らぎを
京衛武百十
SF
惑星間航行技術を確立させて既に二千年。その活動範囲を銀河系全体へと広げていた人類は、多くの惑星を開拓、開発し、人間が居住可能な環境へと作り変え、次々と移住を行っていた。
そんな中、<星歴>一九九六年に発見された惑星リヴィアターネは、人類に大きな衝撃を与えた。なにしろそれは、何も手を付けなくてもほぼ地球と同じ環境であったのみならず、明らかに人工物、いや、紛れもなく地球人類以外の手による住居跡が遺跡として残されていたのである。
文明レベルとしては精々西暦一〇〇〇年前後頃の地球程度と推測されたが、初めて明確な形で確認された地球人類以外の知的生命体の痕跡に、発見当時は大いに盛り上がりも見せたのだった。
綿密な調査が行われ、大規模な惑星改造の必要もなく即移住可能であることが改めて確認され、また遺跡がある意味では観光資源になるとも期待されたが故に移住希望者が殺到。かつてない規模での移住が開始されることとなった。
惑星リヴィアターネは急速に開発が進み各地に都市が形成され、まさに本当に意味での<第二の地球>ともてはやされたのだった。
<あれ>が発生するまでは……。
人類史上未曽有の大惨事により死の惑星と化したリヴィアターネに、一体のロボットが廃棄されるところからこの物語は始まることとなる。
それは、人間の身の回りの世話をする為に作られた、メイドを模したロボット、メイトギアであった。あまりに旧式化した為に買い手も付かなくなったロボットを再利用した任務を果たす為に、彼女らはここに捨てられたのである。
筆者より
なろうで連載していたものをこちらにも掲載します。
なお、この物語は基本、バッドエンドメインです。そういうのが苦手な方はご注意ください。
メルシュ博士のマッドな情熱
京衛武百十
SF
偽生症(Counterfeit Life Syndrome)=CLSと名付けられた未知の病により死の星と化した惑星リヴィアターネに、一人の科学者が現れた。一切の防護措置も施さず生身で現れたその科学者はたちまちCLSに感染、死亡した。しかしそれは、その科学者自身による実験の一環だったのである。
こうして、自らを機械の体に移し替えた狂気の科学者、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士のマッドな情熱に溢れた異様な研究の日々が始まったのであった。
筆者より。
「死の惑星に安らぎを」に登場するマッドサイエンティスト、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士サイドの物語です。倫理観などどこ吹く風という実験が行われます。ご注意ください。
❤️レムールアーナ人の遺産❤️
apusuking
SF
アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。
神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。
時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。
レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。
宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。
3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。
きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕!
突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。
そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?)
異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!
CREATED WORLD
猫手水晶
SF
惑星アケラは、大気汚染や森林伐採により、いずれ人類が住み続けることができなくなってしまう事がわかった。
惑星アケラに住む人類は絶滅を免れる為に、安全に生活を送れる場所を探す事が必要となった。
宇宙に人間が住める惑星を探そうという提案もあったが、惑星アケラの周りに人が住めるような環境の星はなく、見つける前に人類が絶滅してしまうだろうという理由で、現実性に欠けるものだった。
「人間が住めるような場所を自分で作ろう」という提案もあったが、資材や重力の方向の問題により、それも現実性に欠ける。
そこで科学者は「自分達で世界を構築するのなら、世界をそのまま宇宙に作るのではなく、自分達で『宇宙』にあたる空間を新たに作り出し、その空間で人間が生活できるようにすれば良いのではないか。」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる