愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボットドクター、アリシアのドタバタ診療日誌

秀青と立志、蚊帳の外

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そうして安吾はニーナを想いやきもきしていたが、立志と秀青はそれこそ<蚊帳の外>であり、診察室外の待機スペースでただ待つしかなかった。そこで立志は、

「なんか飲むか?」

秀青に尋ねる。すると秀青も敢えて遠慮することなく、

「あ、ミネラルウォーターをお願いします」

と口にしたので、

「お…おう、そうか……」

立志は応えつつ自動販売機横の無料のウォーターサーバーのミネラルウォーターを紙コップに汲んで、秀青に渡した。そして自身は、自動販売機でエナジードリンクを買う。長丁場になるかもしれないと思ったからだ。そして、

「なんか食うか? ハンバーガーとカップラーメンしかねえけど」

とも尋ねてくる。

「そうですね。じゃあ、カップラーメンで」

「よっしゃ」

応えた立志は自動販売機(厳密にはこれもロボットだが、自律行動はできないので敢えてカウントしない)でカップラーメンとハンバーガーを買い、カップラーメンは秀青に渡し自分はハンバーガーを手にベンチに腰かけた。

「ありがとうございます」

カップラーメンを受け取った秀青は礼を口にするが、

「いや、ここの厄介事に巻き込んじまったんだし、このくらいはな……」

むしろ立志の方が恐縮していた。最初に昆虫を追いかけていた秀青に対して舌打ちをしていた彼の姿はもうどこにもない。さらには、

「ホント、あんたがいてくれて助かったよ……」

しみじみ口にした。

「いえ、僕は当然のことをしただけです。それに実際に力になってるのはアリシア2234-LMNだ。僕じゃありません」

秀青が穏やかに笑う。中学生くらいの見た目が嘘のように思えるほど落ち着いている。

『どんな家で育ったらこんな風になるんだ……?』

立志は唖然とするが、しかし今でこそこんなに落ち着いている秀青も、精神的に荒んでいた時期もあった。けれど、いい出逢いに恵まれたことでそんな時期を乗り越えられ、成長できたのだ。それがなければもしかすると彼は今とは全然違った様子だった可能性もある。

人の成長は、必ずしも本人の努力だけでなされるわけじゃない。周囲の人々の協力があってこそのものなのだ。それを自分だけの努力で成せたと考えるのはただの傲慢であろう。

秀青は、千堂京一せんどうけいいちや、なにより千堂アリシアに出逢えたことで今の彼になれたのだと言えるし、彼自身がそれを心に刻んでいた。だからこその姿だった。

自分の努力だけですべてが成せたと考えていたら、彼はもっと尊大な人間になっていた可能性が高い。そういう資質も持ち合わせていたのだ。

千堂アリシアに初めて出逢った頃の彼のように。

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