540 / 804
ロボットドクター、アリシアのドタバタ診療日誌
辻堂安吾、やきもきする
しおりを挟む
この時代、出産は原則<無痛分娩>で行われる。なので当然、ニーナのそれも無痛分娩だ。保険適用も受けられる。
そして亜美が、無痛分娩のための処置を、間倉井医師の指示の下で行う。
<そのために作られたメイトギア>だから、手つきに一切の無駄も躊躇もなく淡々と正確に決められた手順を間違えることなくこなしていく。ロボットだから、最初の設定にミスがなければ『間違える』ことがそもそもできないのだ。
もちろん、現在のメイトギアに至る前の黎明期のロボットなどではノウハウが十分じゃなかったこともあって設定のミスなどにより不幸な事故が起こったりもしたが、数百年に亘るノウハウの蓄積は、それらを一つ一つ潰していった。
だから、人間の側がミスをしなければ、何らかの外的要因がなければ、事故は起こらない。
こう書くといかにも事故が起こりそうに感じるかもしれないが、そうではない。あくまでそういう時代だという説明なだけである。
無痛分娩なのでニーナの方も自然分娩のそれよりは余裕がありそうだったが、さすがに不安の色は隠せない。初産なので余計だろう。
とは言え、初産ともなればそれこそ時間が掛かるケースも多い。無痛分娩が行われ始めた頃に比べれば分娩のコントロールも高度に行われるようになったものの、『出産が始まって十分で終わる』ようなものでないこともまた事実である。焦っても仕方ない。
なお、ニーナの夫の辻堂安吾にも、当然、妻が産気付いたことについて連絡がいっている。しかし、
「ちくしょう……こんな時に……」
実は<立ち合い出産>を予定していたのだが、現在、災害級の大雨に見舞われており、風も強くなりつつあって、加えて学校に避難してきている者達もおり、責任者としてその場を離れることはできなかった。ちなみに<校長>や<教頭>は、明帆野以外の小規模な学校のそれを兼任しており、業務はリモート。学校の職員は安吾以外だと用務員が一人いるだけである。そちらも現在、学校の施設に異常がないかを確認に回っており手が離せない。
まあ、設備そのものは堅牢なため、滅多なことはないが。
と思っていたら、校舎の窓のシャッターが一箇所、動作不良を起こして下りておらず、手動で対処することになったりもした。しかしその程度で済んでいる。済んでいるが、安吾が病院に向かうわけにはいかなかった。
「辻堂先生、ごめんなさい……」
家族と共に避難してきていた生徒が、自分がいる所為で病院に行けないんだと考えて謝ってくる。だが当然、生徒の所為などではない。
「ああ、大丈夫。間倉井先生がいれば大丈夫だよ」
やきもきしながらも、生徒を安心させるために笑顔を浮かべたのだった。
そして亜美が、無痛分娩のための処置を、間倉井医師の指示の下で行う。
<そのために作られたメイトギア>だから、手つきに一切の無駄も躊躇もなく淡々と正確に決められた手順を間違えることなくこなしていく。ロボットだから、最初の設定にミスがなければ『間違える』ことがそもそもできないのだ。
もちろん、現在のメイトギアに至る前の黎明期のロボットなどではノウハウが十分じゃなかったこともあって設定のミスなどにより不幸な事故が起こったりもしたが、数百年に亘るノウハウの蓄積は、それらを一つ一つ潰していった。
だから、人間の側がミスをしなければ、何らかの外的要因がなければ、事故は起こらない。
こう書くといかにも事故が起こりそうに感じるかもしれないが、そうではない。あくまでそういう時代だという説明なだけである。
無痛分娩なのでニーナの方も自然分娩のそれよりは余裕がありそうだったが、さすがに不安の色は隠せない。初産なので余計だろう。
とは言え、初産ともなればそれこそ時間が掛かるケースも多い。無痛分娩が行われ始めた頃に比べれば分娩のコントロールも高度に行われるようになったものの、『出産が始まって十分で終わる』ようなものでないこともまた事実である。焦っても仕方ない。
なお、ニーナの夫の辻堂安吾にも、当然、妻が産気付いたことについて連絡がいっている。しかし、
「ちくしょう……こんな時に……」
実は<立ち合い出産>を予定していたのだが、現在、災害級の大雨に見舞われており、風も強くなりつつあって、加えて学校に避難してきている者達もおり、責任者としてその場を離れることはできなかった。ちなみに<校長>や<教頭>は、明帆野以外の小規模な学校のそれを兼任しており、業務はリモート。学校の職員は安吾以外だと用務員が一人いるだけである。そちらも現在、学校の施設に異常がないかを確認に回っており手が離せない。
まあ、設備そのものは堅牢なため、滅多なことはないが。
と思っていたら、校舎の窓のシャッターが一箇所、動作不良を起こして下りておらず、手動で対処することになったりもした。しかしその程度で済んでいる。済んでいるが、安吾が病院に向かうわけにはいかなかった。
「辻堂先生、ごめんなさい……」
家族と共に避難してきていた生徒が、自分がいる所為で病院に行けないんだと考えて謝ってくる。だが当然、生徒の所為などではない。
「ああ、大丈夫。間倉井先生がいれば大丈夫だよ」
やきもきしながらも、生徒を安心させるために笑顔を浮かべたのだった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
死の惑星に安らぎを
京衛武百十
SF
惑星間航行技術を確立させて既に二千年。その活動範囲を銀河系全体へと広げていた人類は、多くの惑星を開拓、開発し、人間が居住可能な環境へと作り変え、次々と移住を行っていた。
そんな中、<星歴>一九九六年に発見された惑星リヴィアターネは、人類に大きな衝撃を与えた。なにしろそれは、何も手を付けなくてもほぼ地球と同じ環境であったのみならず、明らかに人工物、いや、紛れもなく地球人類以外の手による住居跡が遺跡として残されていたのである。
文明レベルとしては精々西暦一〇〇〇年前後頃の地球程度と推測されたが、初めて明確な形で確認された地球人類以外の知的生命体の痕跡に、発見当時は大いに盛り上がりも見せたのだった。
綿密な調査が行われ、大規模な惑星改造の必要もなく即移住可能であることが改めて確認され、また遺跡がある意味では観光資源になるとも期待されたが故に移住希望者が殺到。かつてない規模での移住が開始されることとなった。
惑星リヴィアターネは急速に開発が進み各地に都市が形成され、まさに本当に意味での<第二の地球>ともてはやされたのだった。
<あれ>が発生するまでは……。
人類史上未曽有の大惨事により死の惑星と化したリヴィアターネに、一体のロボットが廃棄されるところからこの物語は始まることとなる。
それは、人間の身の回りの世話をする為に作られた、メイドを模したロボット、メイトギアであった。あまりに旧式化した為に買い手も付かなくなったロボットを再利用した任務を果たす為に、彼女らはここに捨てられたのである。
筆者より
なろうで連載していたものをこちらにも掲載します。
なお、この物語は基本、バッドエンドメインです。そういうのが苦手な方はご注意ください。
メルシュ博士のマッドな情熱
京衛武百十
SF
偽生症(Counterfeit Life Syndrome)=CLSと名付けられた未知の病により死の星と化した惑星リヴィアターネに、一人の科学者が現れた。一切の防護措置も施さず生身で現れたその科学者はたちまちCLSに感染、死亡した。しかしそれは、その科学者自身による実験の一環だったのである。
こうして、自らを機械の体に移し替えた狂気の科学者、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士のマッドな情熱に溢れた異様な研究の日々が始まったのであった。
筆者より。
「死の惑星に安らぎを」に登場するマッドサイエンティスト、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士サイドの物語です。倫理観などどこ吹く風という実験が行われます。ご注意ください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
決戦の夜が明ける ~第3堡塁の側壁~
独立国家の作り方
SF
ドグミス国連軍陣地に立て籠もり、全滅の危機にある島民と共に戦おうと、再上陸を果たした陸上自衛隊警備中隊は、条約軍との激戦を戦い抜き、遂には玉砕してしまいます。
今より少し先の未来、第3次世界大戦が終戦しても、世界は統一政府を樹立出来ていません。
南太平洋の小国をめぐり、新世界秩序は、新国連軍とS条約同盟軍との拮抗状態により、4度目の世界大戦を待逃れています。
そんな最中、ドグミス島で警備中隊を率いて戦った、旧陸上自衛隊1等陸尉 三枝啓一の弟、三枝龍二は、兄の志を継ぐべく「国防大学校」と名称が変更されたばかりの旧防衛大学校へと進みます。
しかし、その弟で三枝家三男、陸軍工科学校1学年の三枝昭三は、駆け落ち騒動の中で、共に協力してくれた同期生たちと、駐屯地の一部を占拠し、反乱を起こして徹底抗戦を宣言してしまいます。
龍二達防大学生たちは、そんな状況を打破すべく、駆け落ちの相手の父親、東京第1師団長 上条中将との交渉に挑みますが、関係者全員の軍籍剥奪を賭けた、訓練による決戦を申し出られるのです。
力を持たない学生や生徒達が、大人に対し、一歩に引くことなく戦いを挑んで行きますが、彼らの選択は、正しかったと世論が認めるでしょうか?
是非、ご一読ください。
学園都市型超弩級宇宙戦闘艦『つくば』
佐野信人
SF
学園都市型超弩級宇宙戦闘艦『つくば』の艦長である仮面の男タイラーは、とある病室で『その少年』の目覚めを待っていた。4000年の時を超え少年が目覚めたとき、宇宙歴の物語が幕を開ける。
少年を出迎えるタイラーとの出会いが、遥かな時を超えて彼を追いかけて来た幼馴染の少女ミツキとの再会が、この時代の根底を覆していく。
常識を常識で覆す遥かな未来の「彼ら」の物語。避けようのない「戦い」と向き合った時、彼らは彼らの「日常」でそれを乗り越えていく。
彼らの敵は目に見える確かな敵などではなく、その瞬間を生き抜くという事実なのだった。
――――ただひたすらに生き残れ!
※小説家になろう様、待ラノ様、ツギクル様、カクヨム様、ノベルアップ+様、エブリスタ様、セルバンテス様、ツギクル様、LINEノベル様にて同時公開中
【完結】最弱テイマーの最強テイム~スライム1匹でどうしろと!?~
成実ミナルるみな
SF
四鹿(よつしか)跡永賀(あとえか)には、古家(ふるや)実夏(みか)という初恋の人がいた。出会いは幼稚園時代である。家が近所なのもあり、会ってから仲良くなるのにそう時間はかからなかった。実夏の家庭環境は劣悪を極めており、それでも彼女は文句の一つもなく理不尽な両親を尊敬していたが、ある日、実夏の両親は娘には何も言わずに蒸発してしまう。取り残され、茫然自失となっている実夏をどうにかしようと、跡永賀は自分の家へ連れて行くのだった。
それからというもの、跡永賀は実夏と共同生活を送ることになり、彼女は大切な家族の一員となった。
時は流れ、跡永賀と実夏は高校生になっていた。高校生活が始まってすぐの頃、跡永賀には赤山(あかやま)あかりという彼女ができる。
あかりを実夏に紹介した跡永賀は愕然とした。実夏の対応は冷淡で、あろうことかあかりに『跡永賀と別れて』とまで言う始末。祝福はしないまでも、受け入れてくれるとばかり考えていた跡永賀は驚くしか術がなかった。
後に理由を尋ねると、実夏は幼稚園児の頃にした結婚の約束がまだ有効だと思っていたという。当時の彼女の夢である〝すてきなおよめさん〟。それが同級生に両親に捨てられたことを理由に無理だといわれ、それに泣いた彼女を慰めるべく、何の非もない彼女を救うべく、跡永賀は自分が実夏を〝すてきなおよめさん〟にすると約束したのだ。しかし家族になったのを機に、初恋の情は家族愛に染まり、取って代わった。そしていつからか、家族となった少女に恋慕することさえよからぬことと考えていた。
跡永賀がそういった事情を話しても、実夏は諦めなかった。また、あかりも実夏からなんと言われようと、跡永賀と別れようとはしなかった。
そんなとき、跡永賀のもとにあるゲームの情報が入ってきて……!?
鉄錆の女王機兵
荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。
荒廃した世界。
暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。
恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。
ミュータントに攫われた少女は
闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ
絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。
奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。
死に場所を求めた男によって助け出されたが
美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。
慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。
その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは
戦車と一体化し、戦い続ける宿命。
愛だけが、か細い未来を照らし出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる