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ロボットドクター、アリシアのドタバタ診療日誌
茅島秀青、離島に到着する
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宿角結愛とその家族並びに茅島秀青および彼のアリシア2234-HHC(の外見を持つアリシア2234-LMN)を乗せたフローティングバスは、
<都市としてのJAPAN-2から千キロ離れた、湖の中に浮かぶ島の小さな集落>
への定期バスだった。と言っても、三日に一度のものだが。
それ以外では、自身でフローティングバスをチャーターするか、湖まで自動車で行き、そこからは船で向かうかしかないという、まるで外界との交流を拒んでいるかのような集落だった。
と言うか、実際にあまり望んではいないのだ。
その理由は機会があれば触れることにして、とにかくフローティングバスは順調に行程をこなし、定刻通りに集落のある島へと到着した。
そこは、まさに、
<都市を遠く離れた離島の港>
といった風情の場所だった。船の港も、フローティングバスの停留所も、一つにまとめられているのである。
「時間そのものはさほど掛かってないけど、どうにも『遠い』という印象は拭えない場所だね」
対岸はかなり遠くに見える湖を渡る風に吹かれながら、秀青は呟く。すると、
「それはあくまで錯覚ではありますが、確かに、現在の火星での一般的な生活環境では、これほどの長時間の移動は他の都市への渡航くらいのものですね」
彼に寄り添うように立つアリシア2234-LMNが冷静に応える。
「まあね。でも、だからこそ<貴重な種>が育ってるってもんだよ」
成長期ゆえに一気に背も伸び声も青年のそれになりつつある秀青は、いっぱしの<研究者>としての表情を見せていた。
そう。彼が今回ここを訪れたのは、火星の固有種として定着しつつある様々な昆虫や節足動物の調査であった。彼の<師>が他の地に向かっていることを受けて、代理として調査を任されたのだ。
あくまで予備的な調査ではあるものの、だからと言って手を抜いていいものでもない。彼はあくまで、<研究者の一人>としてこの地に来たのである。
なので、宿角結愛と一緒になったのは、完全な偶然でであった。
「この島唯一の宿とは連絡が付いています。このままチェックインを済ませますか?」
問い掛けるアリシア2234-LMNに、秀青は、
「あ! ちょっと待って! <火星マミズフナムシ>だ! 記録しろ!」
島の<出入口>である港の護岸を何匹かの虫が這っているのを見付けて、彼は嬉しそうにアリシア2234-LMNに命じる。自身も携帯端末で写真を撮りつつも、自分よりより確実に画像や映像を記録してくれるアリシア2234-LMNを最大限利用するのが彼のスタイルだった。
かつてこの<アリシア2234-LMN>を毛嫌いしていた彼の姿はもうそこにはなかったのだった。
<都市としてのJAPAN-2から千キロ離れた、湖の中に浮かぶ島の小さな集落>
への定期バスだった。と言っても、三日に一度のものだが。
それ以外では、自身でフローティングバスをチャーターするか、湖まで自動車で行き、そこからは船で向かうかしかないという、まるで外界との交流を拒んでいるかのような集落だった。
と言うか、実際にあまり望んではいないのだ。
その理由は機会があれば触れることにして、とにかくフローティングバスは順調に行程をこなし、定刻通りに集落のある島へと到着した。
そこは、まさに、
<都市を遠く離れた離島の港>
といった風情の場所だった。船の港も、フローティングバスの停留所も、一つにまとめられているのである。
「時間そのものはさほど掛かってないけど、どうにも『遠い』という印象は拭えない場所だね」
対岸はかなり遠くに見える湖を渡る風に吹かれながら、秀青は呟く。すると、
「それはあくまで錯覚ではありますが、確かに、現在の火星での一般的な生活環境では、これほどの長時間の移動は他の都市への渡航くらいのものですね」
彼に寄り添うように立つアリシア2234-LMNが冷静に応える。
「まあね。でも、だからこそ<貴重な種>が育ってるってもんだよ」
成長期ゆえに一気に背も伸び声も青年のそれになりつつある秀青は、いっぱしの<研究者>としての表情を見せていた。
そう。彼が今回ここを訪れたのは、火星の固有種として定着しつつある様々な昆虫や節足動物の調査であった。彼の<師>が他の地に向かっていることを受けて、代理として調査を任されたのだ。
あくまで予備的な調査ではあるものの、だからと言って手を抜いていいものでもない。彼はあくまで、<研究者の一人>としてこの地に来たのである。
なので、宿角結愛と一緒になったのは、完全な偶然でであった。
「この島唯一の宿とは連絡が付いています。このままチェックインを済ませますか?」
問い掛けるアリシア2234-LMNに、秀青は、
「あ! ちょっと待って! <火星マミズフナムシ>だ! 記録しろ!」
島の<出入口>である港の護岸を何匹かの虫が這っているのを見付けて、彼は嬉しそうにアリシア2234-LMNに命じる。自身も携帯端末で写真を撮りつつも、自分よりより確実に画像や映像を記録してくれるアリシア2234-LMNを最大限利用するのが彼のスタイルだった。
かつてこの<アリシア2234-LMN>を毛嫌いしていた彼の姿はもうそこにはなかったのだった。
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