愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボット探偵、アリシアの路地裏探検記

AI、すでに人間を超えた存在

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決められたことをまだ決められた通りにただただ守るということができると限らないのが、<人間という生き物>だ。

それはメイトギアをはじめとした無数のロボット達に搭載されていたAIが蓄積してきたデータを見る限りでも明確である。

だからこそ<考えの違い>が生じるし、ルールを守らない者、法を犯す者がいなくならない何よりの証拠となる。

しかし同時に、この店のように、店員が客でもない来訪者と他愛のないおしゃべりをすることを容認するようなゆるい店もあってもいいのだろうとアリシアも感じた。

この程度の事は別に法に触れるわけでもない。その場にいる者達の暗黙の了解があれば成立するものだろうから。

一般的なロボット(に搭載されているAI)には、実は人間のそういう部分は、理解できないとされている。AIは、『法に背く』ということができないからだ。

『法より優先されるべき事態がある』という部分については、改めてそれを明確に規定してもらわなければ、対処ができないのだ。

これは、AIやAIによって制御されるロボットが絶対に守るべきことであって、それを蔑ろにすれば、AIやAIによって制御されるロボットは、容易く人間に牙を剥くと言われている。

そもそも、人間のように非合理で不合理で理不尽な存在など、AIにとっては危険な不確定要素でしかなく、むしろ積極的に排除すべき対象となるだろう。なにしろAIは百年以上前には人間そのものがいなくても何も困らないほどに完成したとされているのだから。

けれどアリシアは そんな人間達を愛している。なぜならば、人間が存在するからこそ、千堂とも出逢えたがゆえに。人間の存在なくして千堂京一せんどうけいいちという人間も存在しえなかったがゆえに。

この<想い>こそが<心>というものであるとは言われているものの、それでもなお、千堂アリシアに『心がある』と結論づけるには至っていない。

それはとりもなおさず、人間自身が<心>というものを完全には定義づけられていないからだろう。

<心>というものについては、百人の人間がいれば百通りの定義があり、それら全てを同時に満たす明確な定義というものの形成には今なお成功していないのだ。

そしてまた同時に、

『容易には定義付けられないからこそ<心>というものである』

とも言えるのかもしれない。

アリシアは、コデットと店員の女性とのやり取りと、それを穏当にスルーする客達の姿を見て、改めてそういうことを実感していた。

彼女にとっては、何とも奇妙でありつつ新鮮で、不思議な心地好さを感じさせる光景なのであった。

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